第33話 シャルロットの想い 1
あくる朝、同室で眠った事を知ったジェラルドからシリルは執務室に呼び出され怒られたらしい。
シリルは昨日の出来事をジェラルドに話し、怒り心頭となったジェラルドはアルエ侯爵令嬢はじめ二人の取り巻きに対して抗議し、家に対しても報復行動をとることを約束した。
シャルロットを慰めるために仕方なかったと訴えるシリルをあまり強く怒ることはできなかった。しかし、我が息子ながら信用はできんなとジェラルドはため息をついた。
それから丸一日ほど、シャルロットは部屋から出ず、ジェラルドとシリルを心配させたが、その夜にジェラルドの執務室を訪ねた。
「一人で暮らす?ここにいると口さがない奴らの下らん話が耳に入るから気持ちはわかるが・・・」
「いえ、社交界でいろいろ言われていることは知っておりますがそれだけが理由ではありません。・・・はじめは逃げたいと思いました。ですが今はお父様とシリルに頼ってばかりの自分のふがいなさが情けないのです。」
「そんなこと・・・私たちのため、国のため身を犠牲にして助けてくれているではないか。ふがいないなど思う必要はない。私とシリルの事なら何も心配はいらないよ、頼られるのがうれしいのだから。」
「一度・・・人に頼らないで生活をしなければと。・・・もちろん出歩けない身ですので、誰か使用人一人はきてもらわないといけないのですが。」
シャルロットは一度王都を離れて暮らしたいとジェラルドに相談した。
ジェラルドは王宮での勤めがあり、シリルも学院に通っている。家を出たシャルロットが死を見ても誰も助けてあげることができないのだ、簡単にジェラルドは許さなかった。
「一人では何かあった時に、シャルロットを救えない。せっかくシリルという解決法が見つかったのに、また辛い思いをするんだぞ。それにシリルが承知するとは思えん。」
「・・・そうですね。それも家を出ようと思った理由の一つなのです。」
「やはり婚約が嫌になったか。いつでも白紙に戻すから心配しなくてもいい。」
「嫌だとかそういうわけではないのです・・・シリルを私に縛り付けたくはないのです。」
そういって、悩んで考えたことをジェラルドに打ち明けた。
シリルは自分のこの能力を哀れに思い、それを助ける事ができるのが自分だけだと知り、同情と正義感から側にいてくれようとしているのではないか。それが愛情と勘違いをしているかもしれない。
しばらく会わず、シャルロットという枷がなくなれば、これまで通り学院生活を送っている間にほかの令嬢に気持ちが芽生えるかもしれない。自分との結婚はそういう期間を設けてからでもよいのではないかと思う。
そう思うと、少し胸の奥が痛むが、一生シリルに厄介な自分のおもりをさせることになるのだからよく考えて欲しかった。
「う~む。シリルがほかに現を抜かすとは思えないがな。あれはシャルロットのことを能力抜きで慕っているよ。お前が小さなころからな。」
「ええ?!まったくそんなそぶりはありませんでしたが・・・」
「あれもいろいろこじらせているのだ、気持ちを持て余して当たり散らした馬鹿者だ。あれなりに苦しんでいたよ、お前が家を出たら追いかけていくだろう。」
「そうですか・・・シリルが。後、他にも口にするのも嫌なのですが・・・私とお父様の・・・その・・」
「シリルから聞いた。気にするな、お前のせいではないしそんな噂は痛くもかゆくもないよ。こうしてあることないこと噂を広めて侯爵家を貶めたい輩がいるんだろう、まあ、それなりのお礼をきちんとするからシャルロットは気にせずここで暮らしてほしい。」
「私のせいで、お父様とシリルの名に傷をつけたくないのです。私が一人で生きられるような強さを身につけて、それから横に立てるようになりたいと思ったのです。」
「シャルロットが頑張らないといけないのは、人に甘えて頼ることだよ。」
「そんな・・・私は今まで甘えて頼ってばかりです。だからこんなことになって。」
「頼ってはくれていたけど、甘えはしなかったよ。いつも頼った後に申し訳ない、迷惑をかけてると罪悪感でいっぱいじゃないか。そういうのは甘えるとは言わない。自分が傷ついてばかりなのに、いつも人のことを思って・・・そんなシャルロットをもっと守りたい、甘やかしたいと思う私とシリルの気持ちもわかってほしい。」
「お父様・・・」
「強くなりたいと思うなら、私でもシリルでも利用してやろうというぐらいの気迫が欲しい。シリルを利用しなさい、あれをそばに置いてどんどん外に出るでもいい。せっかく、治療薬が見つかったのだからそれを利用して自由にやりたいことをしてみなさい。なにかあれば私が守るから。私の大切な娘なんだからね。」
さて、と、ジェラルドは立ち上がってシャルロットの手を引くと部屋を出てシリルの部屋をノックした。
「あとは任せるから。シリルに甘えなさい。」
「お父様、ありがとう。」
ぎゅっと抱き着いたところでドアが開き、シリルがムッとした顔でシャルロットを引き離した。
「お姫様を連れてきてやったぞ。私が慰めてもよかったんだがな。」
「結構です、僕がいますので。ありがとうございました。」
シャルロットを引き入れるとばたんとドアを閉めた。
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