第4話
「やあやあ、我こそは白き清廉なる血脈の騎士、リント・セグド・バウ・バッカニアである」
「今こそ、
『きゃあああああああぁぁあああ!!!!!!!!!!』
女生徒達の悲鳴のような歓声が場内を振るわせる。
騎馬戦が始まる前に、両軍の大将が口上を述べる事になっている。
現在、騎馬上で白組の王子様ことリント・セグド・バウ・バッカニアが激励を発し、得意とする光魔法をオーラに仕立て、高く掲げた右腕と同じく天へと高く放出していた。
大将リントの掛け声に続いて、残りの4騎も右腕を大きく掲げる。
「
白組の口上が”ビシッ”と決まり、会場が盛り上がる。
「まったく、毎度毎度派手な演出ですわね。貴女のお兄様」
「そういう病気なんだ。優しく見守ってやってくれ」
「本当に、顔が似ていますね!!」
「フィーナちゃんちょっと苦手~♪」
クリスティーナ一行には不評のようだ。
しかし、実際に彼らの口上を正面から受け止めた身としては、なかなかの迫力だった。
その様子に気が付いたのか、クリスティーナがこちらに優しい口調で語りかける。
「なあに、ビビる事はありませんのよ。ハッタリですもの」
「えっ!光魔法ってビームとか撃ってくるんじゃないんですか!?」
「あはは、そんな訳ないだろう。私の家系は補助魔法に特化しているからな。兄の魔法もそれに違わないよ。でもまあ、厄介と言えば厄介だけど」
「穢れを無くす…でしたっけ?正直どのような効果をもたらすのか、未だに実感がありません」
「そうですわね…。身体が常態的に持つ怠さや痛み、不運を浄化して消し去る…とでも言えばいいのでしょうか。簡単に言うと、対象をベストコンディションにするバフ魔法ですわね」
「クリスちゃん魔法かけてもらいなよ~♪」
「こ、この女…!!!」
”キー”と奇声を上げたクリスティーナがフィーナの手を踏みつける。
リント先輩の能力は事前には聞いていたけれど、聞けば聞くほど厄介な能力に思える。しかし、こちらにも作戦というものがあるのだ。
「その為に君の力が必要なんだ。相手は全力で兄を守ってくる。それをかい潜る為の機動力が重要になってくる。頼んだぞ!」
リーン先輩の強い期待が凄く眩しい。その期待に応える為に対白組の作戦を脳内で確認する。
クリスティーナ一行の作戦はこうだ。
大枠として、白組の大将リントの光魔法によって他の4騎がヒャッハーする為、一番に大将を仕留める事を目標とする。仕留めるまでは赤組の各騎馬は陽動及び防御に専念し、仕留めた後は各個撃破となっている。
大将を仕留めた後は作戦なんてほとんど無いと言ってもよい。それほど強大なのだ。
陽動で重要になってくるのが、我が騎馬隊の一つグレド隊だ。彼らが持つ飛翔魔法で大将めがけて特攻を行い、ヒット&アウェーを繰り返し白組の隊列を崩す。そして、もし敵が虚を突いて特攻を仕掛けてきた場合には大将を討ち取る役目もある。
しかし、その可能性はかなり低いと考えている。
何故なら大将リントの光魔法は強力な能力ではあるが、その分デメリットもしっかり把握している。それは、効果範囲の狭さである。魔力の消費量は同じ魔法でもそれを発動した距離で大きく変わってくる。ゆえに10分程度とはいえ、常時25名の身体を浄化し続ける為にはある程度固まって行動する必要があるのだ。
現に青組との戦闘では、5騎全て固まった状態で相手を封殺していた。
そして、大将を討つ役目のクリスティーナ隊であるが、私の術式による超機動で素早く背後に回り込み、お嬢様砲をぶっ放すという役目。たとえ討ち取れなかったとしても、乱戦に持ち込めば勝てると算段している。
赤組の他2騎はグレド隊の援護を行い、残りの1騎はクリスティーナ隊の囮として活躍する。
相手の能力を考慮している繊細さや最後の詰めが豪快な所が立案者のクリスティーナを如実に表していた。
一通りイメージトレーニングを終えると、気持ちが多少安らいでいる自分を感じる。
「さぁ、行きますわよ!」
クリスティーナの掛け声を合図に、赤組の全隊が綺麗に隊列を組み上げる。
赤組の口上の時間だ。
クリスティーナ隊を先頭に、4騎で構成される両翼が戦場の中心に陣を構える。
会場全体がクリスティーナに注目を集める中、お嬢様の如きお嬢様は静かに息を吸った後、たった一言で会場全てを掌握した。
「
『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』
クリスティーナの執念とも怨念ともいえる様な欲望の塊が、敵味方関わらず会場全ての人間の感情を揺さぶる。クリスティーナご自慢の金髪縦ロールが気迫と共に躍動し、その姿はまさに魔王と後世まで語り継がれるほどだっただろう。
そして、私もその気迫に押されて涙があふれ、そして力が体中から溢れてくるのを感じた一人であった。
クリスティーナに感動の言葉を贈りたいが、言葉が全く出てこない。
隣のフィーナ先輩の方に振り向いてみると、私と同じく涙を浮かべながらこちらに笑いかけてくれた。
「皆様方、何をしておりますの?さっさと位置に付きますわよ」
当の本人は全く自覚がないらしい。正に天性の才覚と言える。
「クリス、やはり貴女はすごい人だ」
リーンが少し涙ぐんだ声で言った。
「な、なんですのいきなり!褒めるのは勝ってからにして頂きたいですわ!」
「フィーナちゃんクリスちゃんの事、大大大好きになっちゃった♪」
「はぁー?気持ち悪いですの!!」
わいわいといつも通りの雰囲気に戻る。しかし、内なるエネルギーは今にも爆発しそうだ。白組の大将リントが持つ光魔法のバフ効果も、この位の影響力を持つのだろうかと思考を巡らせる。
絶対に勝たなきゃ!絶対に!!
溢れる思いを術式に乗せ、試合開始のホイッスルの高鳴りと共に己の力を行使した。
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