第61話 襲撃
突然の出来事に呆気に取られてしまったが、これって余興とかじゃないよな。
「曲者だ! 国王陛下と王妃様を御守りしろ! ガハッ」
声を出した人が倒されたのがわかった。
暗闇の中で声を出せば目立つ。
俺は小さな声でアリューレに呼びかける。
「ここは、まずい。陛下が狙われてるならここにいたら一番に狙われる。頭を下げて壁の方へ向かおう」
「わかった。だけど陛下を置いてはいけないわ」
「そうだな。陛下、レクスオールです。この場に留まっては狙われます。急いで移動を」
「わかった」
俺は、左手でアリューレの手を引き、右手で陛下を誘導しながらその場から移動し始める。
緊急事態なのは間違いないが、陛下に頭を下げさせるわけにもいかない。
ただ暗闇の中でも陛下の頭に冠している王冠が、僅かな光に反射してその存在を主張している。
狙いが誰なのかはわからないが、暗闇の中で陛下を狙うとしたら格好の目印となってしまう可能性がある。
陛下が狙われれば、俺もアリューレも巻き込まれるかもしれない。
しばらく葛藤し俺は決意した。
自然に自然にだ。
「ふ〜っ」
大きく息を吸い込み狙いを定める。いくぞ。
「陛下! 危ない」
俺は陛下に向けタックルを敢行した。
敵を避けるていでタックルする事で自然と頭部にある王冠を飛ばしてしまうつもりだった。
だけど、俺がタックルして頭が下がった所に風切り音を上げた何かが掠め金属が擦れる音がする。
『ギイィン』
やばい。
完全に陛下の頭部か首を狙った攻撃だ。
「あっ」
陛下の頭から弾かれた王冠がアリューレの目の前をゆっくりと飛んでいき、思わず手を伸ばしたアリューレの腕の中に収まってしまった。
「アリューレ!」
俺の予想通りであれば次のターゲットは王冠を抱くアリューレ。しかもその位置はちょうど胸の辺り。
考えるより速く身体が動いていた。
アリューレの腕を掴み強引に引き、身体の位置を入れ替えアリューレの腕の中にある王冠を咄嗟に掴む。
「うっ……」
その瞬間俺の背中に激痛が走り、遅れて焼けるような熱さが広がる。
「えっ、えっ、ラティス?」
「逃げろ! アリューレとにかく逃げろ! 陛下も頭を下げて逃げてください」
痛みで頭まで焼けきれそうだ。
わかってる。
初めて感じるこの痛みは刃物で刺された痛みだ。
おそらくは、王冠を弾いたのと同じ投げナイフが俺の背中に刺さったのだろう。
「えっ、でも、ラティスも」
「いいから! 行ってくれ!」
表情はわからないが、アリューレもこの暗闇ではっきりとは俺の状況は把握できていないだろう。
アリューレは俺が刺されたのを知ったらこの場から離れてくれないかもしれない。
「陛下! アリューレと!」
「わかった。フェルナンドの娘、我と来るのだ」
「え、は、はい」
俺の意図を汲み取ってくれたのかどうかもよくわからないがとにかく陛下がアリューレを連れてこの場から去ってくれた。きっと陛下の王冠は俺が持っているし陛下にも頭を下げてもらったし大丈夫だよな。
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