第38話 地獄の死神

「これでも十分手加減しております。その証拠に骨も肉も爆ぜてはおりません」

「そんな……」

「さあいきますぞ」

この世に本当に悪魔や死神というものが実在するなら、それは目の前の男のことを指すのだろう。

それから有無をいわせず訓練は続き俺はこの世の地獄を見た。

「ラティス様、今日はここまでといたしましょう。ラティス様、実戦では誰も手加減や容赦はしてくれません。命のやりとりなのです。ここで楽をしては実戦で命を失いますぞ。このギルバート、この命魂をかけてラティス様を鍛え上げさせていただきます。それではまた明日」

「…………」


ギルバートの言うことは完全に正しい。言い返せる言葉はひとつもない。

だけど……だけど……こんな強度の訓練を続けたら近いうちに俺は死んでしまう。

全身が痛すぎてまともに動けない。

そもそも一日でどうこうなるはずも無いが、ギルバートさんとの距離が遠すぎて、全く成果がわからない。

完全にやってしまった。

今までの俺の訓練はお遊びだ。

歴戦の勇士たるギルバートさんに訓練してもらうのは無理があった。

逃げたい……

どこかに逃げれるものなら逃げてしまいたい。

だけど、それはかなわい。


「きゃあっ、ラティス様、そのお姿はどうされたのです。まさかお父様が……」

「…………」

「申し訳ございません。お父様にはきつく言っておきます」

「いや、いいんだ。俺が頼んだことだから」

「そんな」

「すまないけど、肩を貸してもらっていいかな」

「はい、もちろんです」


情けないがひとりで自分の部屋まで辿り着けそうになかったので、リティアの肩を借りてどうにか部屋のベッドにまでたどり着く。

捨てる神あれば拾う神ありとはこの事かもしれない。

完全にダウンしてしまった、俺の事をリティアが甲斐甲斐しく看病してくれた。

なんとご飯も食べさせてくれたのだ。

さすがに疲れが吹き飛ぶとはいかなかったが、リティアのおかげで病みそうになっていたメンタルがかなり復活した。

そのリティアの優しい姿にそれはラティスも惚れるなと密かに思ってしまった。

ご飯を食べると、意識を失い泥の様に眠ってしまった。

翌日目が覚めると、また地獄が待っていた。

正確には死神が待っていたと言うべきかもしれない。

ギルバートさんとの訓練が待っていた。

そして、聞いてみると兵士たちの訓練も開始したそうだが、普段よりも厳しめでやるとのことだった。

俺のこれが軽めなのであれば厳しめとはどれだけの強度なのか聞いただけで背筋が寒くなってしまったが、兵たちは二ヶ月後大丈夫なのだろうか。


「かはっ……」

「それでは、また明日」

「……」

それから毎日の地獄が始まった。なぜかギルバートさんには休日と

いうものは無く、一日の休みもなく訓練は続いた。

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