第30話奇襲
それぞれが持ち場につき姿を隠し息を殺してベリンガムの兵が来るのを待つ。
「来ないな」
待ち始めて既にかなりの時間が経過している。神経を尖らせて待つのもかなり消耗してしまうが、もしかして違う場所を通過したとかじゃないよな。
時間の経過と共にだんだん不安が増してきた。
不安を抱えながらも、待つ以外に策はないのでそのまま潜んでいると遠くから人の声や足音らしきものが聞こえてきた。
レクスオール軍に緊張が走るが、周囲に目を配るとみんな落ち着いてその場で武器を構えている。
まあ当たり前かもしれないが、皆の方が実践経験は豊富だろうから、俺ほどは緊張していないのかもしれない。
徐々に音が大きくなり近づいてきているのがわかる。
「この森を抜ければあとは平地だ。そうすれば一日もすればレクスオールの寝首をかいて終わりだぞ」
「ハハッ、戦いよりこの行軍の方が大変だ」
「まあ、レクスオールなんて吹けば飛ぶ弱小士爵家。今まで潰さなかったのはゲンツ様のお目溢しがあっただけだからな。ようやくってことだ」
「明日にはレクスオールはなくなってベリンガム領だからな」
「違いない」
はっきりとベリンガムの兵団が見え始めるが、確かにこちらよりも数は多い。
俺も手筈通り、潜みベリンガムの兵が罠にかかるのを待つ。
心臓の鼓動が高鳴り、全身から冷や汗が吹き出してくる。
頼む。うまくいってくれ。
どんどん音が近づいてくる。
「うううぁあああ〜」
「ぎゃあああああ〜」
「どうした? ぐあっ」
「罠だあああああ〜!」
「敵襲! 敵襲だ!」
「ガハッ」
ベリンガムの兵の前列からレクスオールの兵が仕掛けた罠にハマっていく。
今回メインで仕掛けたのは、穴を掘り、隠し、底に先を鋭く切った木の棒を突き刺し並べた。
単純な罠だが、現地で一番数を仕掛ける事が出来そうだったので、メインに据えた。
他にも捕獲網の罠など数種類を配置し、かかった敵兵を後方に控える弓隊が狙っていく。
「ぎゃああああ〜!」
「痛えぇ、痛えよ〜」
「くそっ、姑息な真似を! どこだ! どこに潜んでやがる!」
「グハッ」
ベリンガムの兵は奇襲をかけられるという発想がなかったのだろう。
大混乱に落ち入り、統制が取れなくなった兵が次々に罠に落ち矢に倒れていく。
大丈夫だ。上手くいってる。このままいける。
俺の考えた作戦がうまくハマり、ベリンガムを陥れている。
「おえええええぇえ〜」
敵とはいえ俺の立てた作戦で人が死に、今まさに血が流れているのを見て俺は吐き気を抑える事が出来なかった。
前回も人は死んだが、自分の事に必死で周りを見る余裕は一切なかったが、今回は少し引いた位置から全てが見えている。
俺のいた時代ではあり得ない光景に、自分達を襲おうとしている敵だと頭では理解しているが、身体が拒否している。
身体の震えが止まらず、吐き気も治らない。
「ゲェええええ〜」
目が回る。呼吸が苦しい。
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