第8話 一騎打ち
「我こそはリクエ軍筆頭騎士グラディスなり。レクスオール如きににここまでこけにされて黙っているわけにはいかん!! いざ尋常に勝負!!」
え〜っと、いざ尋常に勝負って一騎うちってこと? 誰と?
「若、グラディスは我が領内にまで名が知られた男。相手にとって不足はありません」
ああ、ギルバートがやってくれるのか。ギルバートなら大丈夫だよな。多分エクシオールの中でも強い方だろうし。ギルバートが頑張ってくれればハンニバルが周り込む時間を稼げる。
ある意味俺の思い通りになったということだ。
「どうした! あれほどの啖呵を切ったくせに、我を見た途端臆病風に吹かれて出て来んのか?」
「ふざけるでないわ! しばし待っていろ! 今出るわ!!」
「ギルバート」
「若、頼みましたぞ」
「は……い?」
「このギルバート、感服いたしました。あれほどの口上、五十となるこの年まで聞いた事はございません。若の気合いと我が軍への想い。しかと伝わりました。もう若をお止めすることはできません。私の選択は間違いではなかった。さあ若! 思う存分敵にそのエルブラントを振るってください!」
「い、いや、そ、そんな」
ギルバート達が前方を退くと、なんと俺のまたがる馬シュテルンはその間を前へと進んでいくではないか。
「シュテルン! シュテルン止まれ! シュテルンッ!」
俺の必死の呼びかけに応じてようやくシュテルンがその歩みを止めた。
よかった。俺の想いが伝わったようだ。
「ようやく出て来たか」
「え!?」
「その鎧にグリフォンの兜。お前がラティス・レクスオールだな。先ほどの口上といい、リクエ軍を前にして自ら出てくるとは敵ながら大した胆力だ。惜しいが、今日でその命運は尽きる。いざ尋常に勝負! さあ、剣を構えよ」
「あ……う……」
敵から殺気のようなものがビンビン伝わってくる。
もちろん今までの訓練でこんな本気の殺気を浴びたことなど一度もない。
「さあ、始めよう。さっさと剣を構えよ。まさかこのグラディスに剣を持たぬ相手を切れというのか? さあ、早く!」
やばい。当たり前だが相手のグラディスは俺を殺す気満々だ。このままだと一刀の下に斬り伏せられる。
剣、剣を構えるしかない。
俺は腰に手をやりエルブラントを握り身体の前で構える。
「いざ参る!」
俺が剣を構えると同時にそう声を上げてグラディスが剣を振り上げこちらに向かってくる。
「ひいぃ」
情けない声が口から漏れるが、歴戦の勇士が本気で俺を殺しに向かって来ているのだからこの反応も当然だろう。
グラディスとの距離がどんどん詰まってすれ違い様俺の頭部を狙ったであろう一撃が振り抜かれる。
週に二回の剣術訓練で俺が特別な才能を見出されることはなかったが、講師からひとつだけ褒められた事がある。
それは相手の攻撃を避けることだ。
唸りを上げて迫ってくる剣を咄嗟に前傾姿勢で避ける。
『ブオッ』
さっきまで俺の頭があった位置を剣が抜けていく音が聞こえてくる。
やばい。
このままではやばい。
今のは運良く躱せたけど、やはり訓練とは違う。
あれなら直撃で即死。
掠ってもタダでは済まない。
ブレーキをかけ転回しようとするそぶりを見せたシュテルンの腹を必死で蹴り、そのままグラディスから遠ざかるように走らせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます