転生勇者は元推しの下僕にジョブチェンジ ――アイドルからは逃れられない運命だった?――

他津哉

第一章『運命の出会いと再会?』

第1話「マオー討伐!! 推しやって来る!!」


「行くぞ!! 究極最強魔法!! エターナル・ブリザード・ライトニング・フレイム・トルネード・ダークマター・ブリザード・フラッシュ・アストラル・デストロイ……長いから以下略!! くらえええええええ!!」


「こ、これが勇者のすんげえ魔法!? こんなの勝てるかあああああああああ!!」


 今ご覧いただいているのは私達の住む世界とは違う世界、違う歴史を辿った剣と魔法が一般的な異世界での一幕だ。


 この世界の行く末を決める最終決戦、その最終局面で勇者が最強の魔法を使い勝利するという割と良くある流れだった。


「ふっ、長く、そして辛い戦いだった……」


「やったな勇者!!」

「さすが勇者様!!」

「選ばれし者だ!!」


 そして彼には当然のように仲間がいた。だが最終決戦で「もうあいつ一人でよくね?」状態で後ろから応援していただけの割と役立たずの三人で、悲しいかな力のインフレに付いて行けなかったのだ。


「皆が居てくれたから私はここまで来れたんだ、改めて感謝したい」


「そんな、俺達なんて……」

「最後は見てるだけで……」

「とても勇者様の足元には」


 そして彼らは長い戦いを終え懐かしき故郷へ帰るのだ。こうして英雄譚は語り継がれ幕を下ろす…………はずだった。


『あ~、あ~、テステス聞こえてる~、カズくぅ~ん?』


「っ……!? そっ、そんなことは無い……では皆で凱旋しようではないか!! 我らが祖国エイフィアルド王国へ!!」


 今の声は文字通りの天の声つまり神だ。喋り方が若干チャラい感じだが神様だ。神様と言ったら神様なのだ。


『は? カズく~んシカトとかテンション下がるわ~、マジ空気読めよ』


「済まない皆……少し気が抜けたようだ。用を足してくる」


 それだけ言うと勇者は急いで立ち去った。今この声が聞こえているのは彼だけで言わば神託にも等しく慌てて走り出すと神の声を聞こうと物陰に隠れた。




「ここまで来れば……神様、空気読むのはそっちですよね!?」


『は? 神に逆らうとかマジありえなくね?』


 勇者はキョロキョロと周囲に誰もいないのを確認すると通信するかのように耳に手を当て小声で話し出す。


「はいはい悪かったっすね、今度そっち神界に呼ばれた時は友達料金コロッケパン持ってくんで」


『うぇ~い!! マジで~!! 神様マジでパねぇくらい忙しいから助かる~』


 このギャル男とパシリみたいな会話をしている二人なのだが意外でも何でもなく神と勇者の真の姿である。これはまだ勇者が逸加いつか かなうという日本人で転生前の時から二人はこんな関係だった。


「それで、どうしたんですか?」


『いやさカズくん……俺もうマヂ無理な神案件やってくれたじゃん? 神様マジリスペクトだよ、いやこれガチで』


「俺も神様には感謝してますから」


 これは本心でかなうが勇者イツカズとして記憶を取り戻した十三年の間で何度も感謝していた。前世の人生が悲惨過ぎて最後の瞬間まで情けなくて転生後も記憶が戻った時は軽いトラウマだった。


『でもカズくんが記憶とか戻ってテンアゲした時はマジ焦ったし』


「あの時は七歳でしたから……色々と、ね」


 その後イツカズは瞬く間に才能を開花させ勇者となった。そして二十歳となった今年で世界征服を企んでいたマオー軍を倒し世界を救ったのが今まさに先ほどのシーンだった。


『マジなつくね? てかさカズくん敵に褒美欲しくね? これで使命も終わりだし』


「結構です。俺、本当に感謝してるんです。後悔して死んだ俺を転生させてくれただけじゃなくて、やりがいの有る使命と人生を送らせてくれて……」


『エッッッッモ!! でも神様、有りよりの有りでお願いして欲しいんだよね~』


 神様の提案を聞いて内心では何か一つくらいと勇者も思ったが同時に先ほど言ったことも全て本心だった。今生は前世と真逆の充実した人生で、それが今の勇者の何よりの宝だった。


「では神様が決めて下さい、俺は、いえ私は城に戻って報告が有りますから」


『オッケー、マジで神様ガチ目でやっから!!』


 この最後の一言が余計だった。この時に別な願いを言えば勇者は平凡な余生が待っていたのだが、神様任せにしたから予想外の方向へ物語は動き始めてしまった。




「勇者イツカズよ王国に、いや世界に平和をもたらした事、マジ感謝しかない」


 勇者が帰国して三日、既に知らせを受けた国は祭状態だった。世界は今、平和に満ちていて、それだけで勇者は満足だ。そして今は玉座の間で仲間達と共に王に公式の報告を終えたばかりだった。


「私には過分なお言葉です王よ……この平和は全ての人々の願い有ればこそ」


「ふむ、なればこそ王として其方そなたに褒美を与えなくてならない、これは王国民の総意だと私は考える。それに私が仕事をしていないと民にディスられる」


 居並ぶ大臣や騎士達からも笑い声が漏れ王も容認するように鷹揚に頷いた。そんな時だった突如、玉座の間に強烈な光が発生した。


「これはっ!?」


「まさか敵襲!?」


 出現した光が爆発的に周囲を包み込み、そして輝き爆ぜた。魔法を凌駕する圧倒的な光量の前に玉座の間の人々は大パニックだ。だが勇者だけは妙な既視感を感じつつ冷静だった。


「陛下を守れ~!!」


 それは今の光が前世で見たこと有るからだ……なんて思っていたら徐々に光が晴れ現れたのは青とブラックの派手な、この世界に馴染みの無いアイドル風衣装を着た少女だったのだ。だが周囲がざわつく中で勇者だけは全力で叫んでいた。


「なっ、なななな……クルミン!?」


 突如、光と共に現れたのは勇者が前世で推していたアイドル三枝さえぐさ クルミだったからだ。

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