最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
◇1
◇side.リンティ
ここは、町のはずれにある孤児院。そんなに大きくはないけれど、院長せんせいとみんなで一緒にくらしている。
「リンティー、ごはんだよ~!」
「ビー、きょうは?」
「カレー!」
昨日、先生とみんなで畑にまいて作った野菜で作るのかな。やったぁ!
そんなかんじでいつも、楽しくくらしていた。
「こぉら! こんな所で遊ばない!」
「え~、だってボールが……」
「危ないからここには入っちゃダメって言ったでしょ。それなら先生に言いなさい」
「はぁい、ごめんなさいせんせい」
「えぇ、ちゃんと謝れて偉いわね」
けど、最近おっきな背の男の人が一人、訪ねてくるようになった。そのたびに、院長せんせいは困った顔をしていて。せんせい、大丈夫? そう聞いても笑顔で大丈夫だよと返されてしまう。
そんな、ある日のこと。またこの孤児院にたずねてきた人が……1、2……5人?
いつもの人とは、違う?
「リンティ、こっち」
「え?」
ここでいちばん年上のお姉ちゃんに手を引かれて、奥に連れてかれた。外では、せんせいと男の人の声。せんせいの声、いつもと違って、怖い、ような……
「待ってくださいっっ!!」
「失礼します。捜せ、くまなくな」
バタバタと家に入ってくる、大きなあしおと。おどろいた皆の声。そのあしおとは、だんだん大きくなってきて。ついに、この部屋のドアが開かれた。
「いたぞ!」
シルバーヘアにブルーの目の男の人。その人が、私の目の前に片ひざを付いた。
「ハニーブロンドの髪に、瞳。間違いない、この方だ」
訳が分からない、この人たちだって全く知らない。混乱していると、院長せんせいの私をよぶ声がして。急いで入ってきて、私と男の人のあいだに入るように私を抱きしめた。
「得体の知れない者に、大事なこの子を引き取らせるなんて事、出来る訳ないでしょう……!!」
よゆうのないせんせいのその言葉を聞いた、目の前にいる男性の後ろにいたブルーヘアーの男の人は、ため息をつきながら「仕方ありませんね」とポケットから何かを取り出した。手のひらに収まるくらいの大きさの、しかくい物体。うすくて、シルバー。ハニーブロンド、私の髪と目の色と似た色で、もんよう? が書かれている。
それと、目の前にいる男の人は腰にさしてあった……剣を取り出していた。それを、私たちに見せる。
それに、何の意味があるのだろうか。それを見たせんせいは、恐ろしいものを見ているような、そんな顔でふるえていた。
ど、どうしたのだろうか……はっ、剣!!
も、もしかして、剣でころされちゃう!? そ、そんなのヤダ!!
「せっせんせいころさないでっ!!」
自分もころされてしまうかもしれない。けど、大好きなせんせいがころされちゃうのはもっとイヤだっ!!
せんせいと男の人のあいだに入って、大きくうでを広げてせんせいをかくした。
怖いけど、でもイヤだ。泣いちゃダメ、そしたらせんせいが守れない。そう思っても怖いものは怖い。
その剣を抜いて、刺されっちゃうんじゃ? そしたら死んじゃう……
「ご、誤解です、皇女様!」
彼はあわてて剣をしまって、もう一人は目の前に片ひざを付きそう私に言った。
「かっ、帰ってっ!!」
「例え皇女様の頼みであっても、我々は皇帝陛下より命を賜りこちらに赴いたわけですので、それは聞けません」
こ、皇帝? それに、皇女さまって……えらい人の名前が出てくるのは、どうして……?
「詳しい事は、城でご説明します。とにかく、我々と共に来ていただきたいのです」
「お、お城……?」
「貴方様が、本来いるべき場所です」
「……私の家は、ここだよ……?」
「いいえ、それは間違いです」
ま、まちがい? だ、だって、ここは小さい時からずっといる、家で、みんなといっしょに、せんせいといっしょに……
「せ、せんせぇ……」
ねぇ、せんせい。どういう事なの……?
「証拠は」
「髪と瞳の色を見れば、一目瞭然でしょう」
「……リンティを連れてって、どうする気」
「先程も申し上げた通り、リンティ様には本来いるべき場所に戻って頂きます」
「……危険は」
「我々近衛騎士団が命に代えてもお守りいたします」
それだけ聞いてだまってしまい、男の人をこわい目でにらむせんせい。それから、私をきつく抱きしめた。
「ごめんなさいっ……本当に、ごめんなさいっ……先生が、無力なせいで……」
あ、あやまらないで、なかないで、せんせい。
「リンティ、貴方は強い子よ。さっきも、剣を出されて私を守ってくれた事、とても嬉しかった。勇気があって、そして優しい子に育ってくれて、先生は誇らしいわ。けど、無理や無茶は決してしちゃダメ。先生と約束できる?」
すぐにわかった。せんせいと、みんなとお別れしなきゃいけないって。
「や、やだよぉ、せんせぇ……」
「大丈夫よ、リンティ。これが最後じゃないんだもの。いつか、会いに来て」
「せんせぇ……」
本当はイヤだった。この人たちを追い出して、ここでみんなとずっといっしょにくらしたい。けどそれを言ったら絶対せんせいが困っちゃう。
だから、私はこの人たちと行くことにした。こわいけど、でもせんせいが大丈夫って言ってくれた。だから、大丈夫。
私は、男の人たちに連れられて近くにとまってた馬車に乗った。
「申し遅れました。私は近衛騎士団団長のアーサー・エバンズです」
「私は、陛下直属の秘書をしています、テオ・デービスと申します」
さっき話していた、シルバーヘアーのお兄さんに、ブルーヘアーのお兄さん。
二人は、とてもキレイな洋服とよろい? を着てる。お金持ち、なんだよね。すごい所で働いてるし、ファミリーネームがあるから貴族。当たり前、だよね。
「これから向かうのは、モファラスト国の皇都にある皇城でございます。そこで、まずは皇女様のお父上、皇帝陛下に会って頂きます」
皇帝へいか、この国でいちばんえらい人、だよね。どうして?
「どうして、私なんですか?」
「皇女様は、陛下と血の繋がった皇女様なのですよ」
「私、おとうさん、いません」
おぼえてないし、せんせいがいないって言ってた。
「今は亡き皇后陛下は、皇女様をお産みになり皇室から去ってしまわれました。ようやく手掛かりを掴んだ時には皇后陛下はこの世を去ってしまっていました。ですが、ようやくあの孤児院で貴方様を見つける事が出来たのです」
皇后へいか、今の皇帝の奥さんってことだよね。今は、いないんだ……
「少し、難しかったようですね」
ここからお城まで2日。お忍びとはいえ乗り心地の悪くみすぼらしい馬車しかご用意できず申し訳ありません、とあやまられた。
けれど、馬車に乗ったのはこれが初めてだし、揺られてるだけでお尻もいたくない。外を見ると、もう孤児院ははるか向こう。座ってるだけでもうこんなに進んじゃったなんて、すごい。
ひと月に一回ある市場のイベントに、いつもせんせいとみんなで行ってたけど、ちょっと遠くて帰ったらいつも夕方だった。これがあったらすぐ行ってすぐ帰ってこれるんだろうなぁ。
「皇女様、如何なさいました?」
いきなり話しかけられて、すぐに頭を横にふった。
お城に向かうまでのあいだの時間は、いつもの2日間よりだいぶ長く感じた。ただ馬車にしらない二人といっしょに乗っているだけ。いろいろお話してくれるけど、それでも長くてたいくつな時間だった。
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