夜の向こう
たなか。
ふたり
「ねえ、カイはさ、なんで私といるの?」
「んー、楽だからじゃない?」
「そうなんだ、でも私カイの彼女じゃないし、いつかは誰かと付き合うかもしれないよ」
「そのときはそのとき考えるよ」
午前0時、私とカイは毎日この時間に河川敷の草むらで二人して寝転び、夜空を見上げている。特に何か目的があるわけでもなく、ぼーっと二人で1時間か2時間ぐらいこの時を過ごす。
「じゃあさ、なんで彼女つくらないの?今日も告白されてたよね」
カイはモテる。顔は誰からもみてもかっこいいだろうし、背も高い。髪もサラサラで肌も綺麗で温厚で賢くて誰にでも優しい。おまけにいい匂いもする。
「んー、早く返信しろとか、もっと電話したいとか、他の女の子と絡むなとか、変化に気づけとか、リードして欲しいとか、なんか色々俺には合わないかなって」
「いやいや、それは人によるでしょ。この子いいなー、みたいな子とかもいないの?」
「いないかな。みんな平等というか、あんまり気にしたことがないというか」
私とカイは19歳だ。この歳の子達なんてほとんどが恋愛に夢中で、悩んだり、怒ったり、泣いたり、を繰り返して充実した日々を過ごすものだと私は勝手に思ってる。
「じゃあ逆にユズはどうなの?俺といるけど」
「私かー。私はそうだなぁ、んー、いないかも」
「なんだよ、じゃあ一緒じゃん」
薄く笑った時に見える八重歯もモテる要素なんだろうな、とカイが笑うたびに思う。
私とカイは幼馴染とか何か特別でロマンチックな出会いをしたわけではなく、ただの高校のクラスメイトとして出会った。一つ共通点があるとすれば、家が近所だったことぐらいだ。
そんな私たちが今のような時間を過ごすようになったのもただの偶然だった。私は夜に散歩することが日課でその散歩コースの道中にある河川敷の草むらに寝転ぶことが至福だった。ある日、そこにカイがいた。
「何してるの?」
と膝を両手で抱えて座るカイに私は尋ねた。
「うお、びっくりした」
2、3秒ほど沈黙が流れると、流石にクラスメイトのことは認知していたのか、誰?というようなことにならずにぽつりとカイはつぶやいた。
「なんか、疲れたなぁって」
「なに?近藤くん病んでるの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。というか川崎さんこそなんでここにいるの?」
「散歩」
「そうなんだ」
「え、それだけ??」
「え?他になんかあるの?」
「いや、ないけど。近藤くんって面白いね。もっとクール系かと思ってた」
「今のやりとりに面白いとこあった?」
「うん、あったよ」
カイの最初の印象は「この人、人に興味なさすぎじゃね?」だった。クラスでも容姿がいいからか、目立っていて、私が思い描いていた人物像とは正反対で正直びっくりした。そ
そこから彼に興味が湧いた。単純だ。私は。
「それで?近藤くんはここで何してるの?」
「悩んでる?のかな」
「なんで疑問形なの?」
「うーん。なんか色々めんどくさくて」
この瞬間、壁を作られた、そう思った。
「そっか、まあ私に話してもって感じだよね」
じゃあね、と声をかけて家に帰ろうかと思い立った時だった。
「えっと、じゃあ聞いてもらってもいい?」
「え?いいの?」
うん、カイが頷く。
作られたはずの壁が壊される音がする。壁を作られたわけじゃない?のかもしれない。身体のどこかでフツフツと湧き立つ謎の感情が現れたのがわかる。
このときのカイの悩みは、女の子に告白され、断ったら泣かしてしまい、他の女子に怒られたとか、そんなちっぽけなことだった気がする。
そして散歩をするたびにカイと会うようになり、今に至るのだ。
「じゃあさ、私が付き合ってって言ったらカイはどうする?」
思い切ったことを聞いてしまったと自分でも思った。
一瞬カイが動揺したような表情を見せた気がするが、気のせいだろう。
「それはないでしょ。だってユズからは他の女の子みたいな好意が感じられないもん」
「そうかもしれないけど、仮に!仮に言ったらどうするの?」
「んー、俺とは付き合えないと思うよ」
「なんで?」
「ユズならわかるでしょ。俺こんなんだし」
答えになってない答えがきた。でもわかってた。カイは優しいから。
「それもそうだね」
「じゃあ、私帰るね」
「うん、ありがとうユズ」
次の日、私は河川敷に行かなかった。行ってもカイはいない。行ってもカイにはもう会えない。昨日が最後だった。
カイはある病気を患っていた。だから誰とも恋をしなかったし、傷つけないようにしてた。私はそれでもよかった。傷つけられても、カイが星になっても毎日河川敷に行ってカイがいる夜の向こうまで会いに行ったのに。
夜の向こう たなか。 @h-shironeko
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