第42話 緑化
基地の事務所に戻った俺は、すぐに隊長の元に向かった。討伐の速度について相談したかったからだ。
隊長は事務所内に設けられた個室で事務作業を行っている。
「失礼します。隊長、今良いですか?」
「ああ、お疲れ様。討伐から帰ってきたんだろう?」
「はい。そのことで少し相談があって……」
そうして俺はモンスターの殲滅スピードが思った以上に早すぎることを伝えた。
このままだと周辺のモンスターがいなくなってしまうということは、隊長も危惧していたようだった。
「私もそのことについて考えてはいたんだが……やはり魔法具が強すぎるんだろうな。ダンジョンで戦っていたモンスターと比べたら、赤子の手をひねるようなものだろう?」
「そうなんですよねー。弱すぎるっていうか……まあ、数は倒せているのでレベルの上がり方に不満は無いんですが」
「多々良くんはどう思う?」
「このままだと、どっちみち討伐を進めた地域に拠点を構えることになると思うんですよね」
俺がそう伝えると、隊長は部屋の壁に取り付けられたモニターにある資料を映した。
「これが大昔、人が住んでいたころの北海道の地図だ。結構大きい街や道路もあるだろう?」
「へえ……この札幌、ていうところはたくさん人が住んでいたんですね」
歴史で学んだことはあったが、久しく北海道について知る機会は無かった。
「実は今回の北海道遠征を行うにあたって国から一つお願いされたことがあってな……魔法隊が使用する建物以外は時間があるときにでも取り壊してほしいそうだ」
「なんで俺たちに?」
なぜ国が魔法隊を使ってそんなことを依頼したのかが良く分からない。
「環境保全の観点で世界にアピールしたいんだとさ。廃墟の街並みをそのままにしておくわけにはいかないんだと」
「何百年も放っておいて今更って感じですね」
「まあ、予算を使わなくても良いってところで我々に白羽の矢が立ったんだろう。今後、余っている公務員がこっちにやってきて緑化活動を始めるらしい」
そうして、モニターの映像には今後の緑化活動の計画が映し出される。
函館から北に向かうように討伐を進め、訪れる街を丸ごと更地にしていくようだ。
「本来は函館の緑化活動だけの予定だったが、話を聞くにこの辺りのモンスターはすぐに討伐してしまいそうだからな。今後、魔法隊は北に向かうことになる」
「……せっかくいい基地を作ったのに、王子が泣き出しそうですね」
「それは心配ないさ。あの男は君がもの作りが好きなのと同じように、建物を作るのが楽しいそうだからね。基地はそのまま緑化活動の拠点になるし、活用できるだろう?」
そうして、俺たち魔法隊はレベル上げと並行してゴーストタウンを更地にしていくことになった。
◇◇◇
「……っていうことになった。結局、この街は近いうちに出ることになるんだとさ」
「ええー。せっかく張り切って基地を作ったのに。まあ、有効活用してくれるなら良かったけどさ」
王子に隊長と話し合ったことを伝えると、やはり函館の基地を出ることは残念がっていた。
「隊長からも話があると思うけど、手の空いている隊員は魔法をぶっ放して街を更地に変えてもらうことになるってさ。いやあ、攻撃魔法が使えなくて良かったよ」
「その瓦礫は土魔法が使える僕たちが埋めなきゃいけないんだよね……?」
「もちろん。頑張れ!」
俺は親指を立てて、飛び切りの笑顔を見せてやった。
「王子、お前自然が好きだと言っていただろう? 緑化活動のために尽力できるんだから本望だろう?」
「北海道がどれだけ大きいと思ってるんだい!?」
そうして、その日の夜に隊長から全隊員へ連絡があった。
最近、ライフルばかりの戦闘で飽き飽きしていたのか、全力で魔法を放っていいと聞いた隊員たちはやる気に満ち溢れていた。
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