第6話 限界オタク少女とあに その6 神聖なる光
『――に――に、あにぃ――!』
『――ぶですか! ――サさん!』
『そろ、目を――と思うん――けど』
柔らかな光に包まれていた。
温かい日差しの差し込む太陽の下で、柔らかなベッドの上に寝転んでいるような。
意識と無意識のはざま。まどろみの中に存在する心地の良い感覚。
「あ、あにぃ……あにぃ……!」
「ん……」
最初に聞こえたのは、オレを呼ぶ妹の声。
なっちゃんよ。あには大丈夫ですよ。
全身を包む柔らかな感覚は、今だ全身をめぐっていた。
仰向けの状態で、上半身だけ少し斜めになっていることから、これはどうやら誰かの膝枕の上らしい。
目覚め特有のボーっとした頭が、次第に、オレをのぞき込む顔を映し出していく。
……なっちゃん? いや、もしかしてパスタさんっ……パスタさんの膝枕っっ!?
なんてラッキー。なんでこうなっているのかは覚えていないが、直前で素敵なお姉さんと話していたのは覚えている。
ああ、神様よありがとう――。
「アニキ大丈夫っスか?」
モヒカンの大男が覗き込んでいた。
「な、ななな、ななななんでお前がオレに膝枕をしてるんだよっっ! おっかしいだろ!!!」
思わず飛び上がり、壁に貼り付くように距離を取るオレ。
「あ、あ、あにぃぃいーーーー! じんばいじだぁーーーー!」
「ぐはっ!」
その後ろをついてきて、ぶちかましをしてくる妹。
「あにちんぢゃったかとおもっだぁぁーーー!」
むしろ今が危ない。
なっちゃん。今の君がやるとシャレにならないからね?
涙と鼻水をこれでもかと擦り付けてくるなっちゃん。
「どうやら治癒魔法が効いたみたいですね。大丈夫ですか? アキヒサさん」
様子を見ていたパスタさんが、声を掛けて来てくれた。
「ええ。いや、今も結構ヤバいですけど……」
割とマジでわき腹が痛い。
「あははは……。ええと、続きの治癒魔法をお願いできますか?」
パスタさんが俺に向けていた顔を後ろに向ける。
そこには、
「アニキ! 本当にスイマセンっした!」
土下座するモヒカン大男。
「ええと……?」
状況が理解できない。
「グルッヘさんはしばらく禁酒ですからね?」
パスタさんが、ため息をつきながら言う。
「酒弱いってのに、ジブンときたら酔っぱらっちまった挙句、アニキに手を上げちまって。それにケジメつけようとしたお嬢を、まさかアニキに止めてもらうなんて……。ジブンなんかあそこでお嬢に潰されてれば……」
あほ言うな。
「おまえ、あにが起きなかったら千回はすりつぶしてた。魚のえさにしてた」
鼻水を俺に擦り付けていたなっちゃんが、グルッヘを振り向きジト目で恐ろしいことを言う。
「へ、へい! もう二度と、お二人のご迷惑になるようなことはしませんっス!」
グルッヘ。再び土下座。
「ま、まあいいや。それよりアニキとお嬢って?」
「へい。命を救ってくれたアニキと、それを許してくれたお嬢ス」
何かおかしい事を言っているかと首を傾げるグルッヘ。
おかしい事しか言ってないけどな。なんでそういう呼び方になるのさ?
「……好きにしてくれ」
なんか話しても面倒くさそうだから、このままでいいや。
「へい! では失礼して!」
ねえ、なんで両手をワキワキしながら近づいてくるの?
「? なんで逃げるんすか?」
「いや、逃げるだろ……」
モヒカンの大男が両手をこっちに突き出して近づいてくるんだぞ?
「逃げられると治癒魔法が出来ないんスけど……」
「お前が回復するんかい!」
パスタさんじゃないんかい!
「あ、すんません。説明してなかったっス。ジブン、神聖魔法3なんスよ」
しかもランク高いんかい! ていうか僧侶! モヒカンで!
「ちなみに、もう一つのランクは炎魔法1っス」
僧侶と魔法使いの両刀! 賢者目指してるんかい! ていうか、おまえのそのデカい体役に立ってねぇ!
どういう存在なんだよお前。
はぁ……。なんか妙に疲れたんだが……。
「あ、そういえばアキヒサさん。アキヒサさんは風魔法2、スカウト2です」
パスタさんが、さも今まで忘れていたというような様子で、オレにとっては非常に大事なことをこんなタイミングであっさりと伝えてきた。
さては、グルッヘが自分のランクの説明していたから、伝え忘れていた事を思い出したんだな。
「盗賊やレンジャーが向いているかと思います。素養は……そこそこですね! 悪くないと思います!」
うーん、オレの異世界転生スキル、普通!
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