子ども部屋おじさん
連喜
第1話
ネットの世界に生きている人にはリアルがないと聞く。長くネットで遊んでいると、出会うのは無職、引きこもり、不登校。そういう人ばかりだ。ネットの世界は居心地がいいから、延々と住み続けているらしい。俺はネットの世界にも限界を感じている。画面の向こうにいるのも同じ人間だからだ。もし、完全に一人の世界に引き籠りたかったら、ネットを切るしかない。
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俺は、数年前、小学校時代から引きこもりを続けている京吾君に会った。
彼とは従弟同士で、子どもの頃に冠婚葬祭で何度か顔を合わせたことがある。かなりシャイな性格のようで、誰とも喋らずに、いつもお母さんの後ろに隠れていた記憶がある。もう、四十歳くらいだろうか。子どもの頃は、お人形のようにかわいくて、親戚の女の子たちにしつこく構われていた。京吾君は暗い顔でうつ向いたままだった。嫌だと言えない性格らしい。
彼が二十歳くらいの頃、会った時も相当かわいくて、いわゆる美少年だった。外に出ないのがもったいないと思うくらいだった。俺はひそかに彼のことが好きだった。その後、何十年経っても、時々彼のことを思い出して、今も引きこもりなのかなと想像したりしていた。
それが最近、突然、彼の母親から連絡があった。京吾君を預かってもらえないかということだった。俺と叔母さんはほとんど交流がなかったが、亡くなった母親と親しくしていて、俺のことが頭に浮かんだらしい。叔母さんは癌で、もう長くないそうだ。すでに余命宣告をされていて、終活をしているということだった。
俺の母親は亡くなっているし、他の男兄弟とも疎遠だった。周囲を見ても、まともな人は俺以外思いつかなかったそうだ。俺は社会人経験もある常識人だと自負しているが、それだけでなく、独身で時間があると勘違いされているんだろう。
父方の親せきがいると思うかもしれないが、京吾君にはもともと父親がいなかった。うちの母親によると、叔母が若い頃にちょっとの間勤めていた会社の社長との間にできた子どもらしかった。すごい金持ちで、市内で何本かの指に入るような人だったらしい。残念ながら、認知はしてもらっていないから、私生児として生まれたということになる。
叔母さんは写真で見る限り、若い頃はすごい美人だったが、精神的にはちょっとおかしかった。一応、水商売で生計を立てていたが、生活に困窮して生活保護をもらっていた。普通は水商売ならある程度稼げると思うのだが、田舎だったし、本人もそれほど熱心ではなかったのかもしれない。または、仕事と称して夜家を出ても男の家に遊びに行っていたり、有り金で遊び歩いていたのだろう。
本当に気の毒なのだが、京吾君は幼稚園などにも通っておらず、もともとコミュニケーションが下手だった。いきなり小学校に通い始めて、すぐにいじめに遭って、行かなくなってしまったようだ。きっと集団が合わなかったのではないかと思う。
彼は外の世界との交流が全くなかったらしい。お母さんは夜中働いて明け方に帰って来るから、昼は寝ている。京吾君はその傍らで、一日中テレビを見て、外に出かけることもしなかったようだ。
時々、母はおばさんの家に行っていたけど、家に帰って来てから「京吾君ってほとんどしゃべれないんだよ。将来どうするんだろうね」と、笑いながら言っていたことがある。
正直言って、叔母さんのような人とどうして仲良くできるのかわからない。普通だったら距離を置くだろうと思う。しかし、うちの親にもそのおばさんに似たところがあったのだろう。母もその人くらいしか友達がいなかった。
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