WEBラジオの文字起こし記録

匿名

第1回放送分 「かわいそう」

眞昼さんと夜毎さんの怪談系WEBラジオ「彼誰異談」を文字起こししました。

実際の人物、団体とは関係ありません


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「はじめまして、こんばんは! ラジオ"彼誰異談"を始めていきます。このラジオは、怪談が大好きな俺、眞昼と」

「僕、夜毎の二人でお送りします。早速参りましょう、今回の話は、SNSで募集してササキさんから頂きました。初回放送にも関わらず、おたよりを送ってくださった方々、ありがとうございました」

「真実かなんて考えちゃだめですよ、この世ならざるものは語られた時点でそこに"いる"んですから」


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  SNSのトレンド欄って、あるじゃないですか。

 芸能人の名前やスマホゲームのキャラクター、新作商品や誰かの失言。話題になったものが表示されるその欄は、意識せずとも目に入る時がある。その時もたまたまそうだった。

 その時、トレンド欄一番上に表示されていたのは、『かわいそう』という言葉だった。

 トレンドに載るには曖昧で気になった。しかし、詳しく検索するとあまり良くない画像が表示されそうな気がしてタップはしなかった。事故の動画や大量の虫が表示されたら滅入ってしまう。

 そのままSNS上で友人にメッセージを返しているうちに、その日はトレンド欄のことなんて忘れてしまった。


 しかし、それを境に自分のトレンド欄から『かわいそう』の文字は消えなくなった。


 トレンド欄がおかしいと数人に言ったが、同じものを見たことがある人はいなかった。

 気持ちは悪いが、直接的に何かを想起させる言葉でもない。所詮はSNSに表示される一単語で、大騒ぎするほどのものではない。元々そんなにSNSに入り浸る方でもなかったため、とりたてて話題にすることはなくなっていった。

 毎日見る『かわいそう』の文字に僅かに気落ちはするものの、それも日常の一部になっていった。

 事態が変わったのは、このメールを送る1週間前のことだ。

 その日のトレンドも相変わらず『かわいそう』が一番上であったが、問題はその下に表示された文字だ。

 それは、日付だった。

 少し先の未来の日付。トレンドにあるからには、アイドルの新曲の発売日か、はたまた映画の公開日だろうか。

 何気なく開いたところ、表示されたのは一つの動画だった。

 躑躅の咲く花壇。明るく照らされたアスファルト。よく晴れた青空。

 鳥の鳴き声が響く中、ドンと言う大きな音とともにアスファルトに黒い何かが落ちてきた。

 人間。

 顔は花壇に隠れて見えないが、手足がありえない方向に曲がっているのがわかる。アスファルトを伝う血が見えるか見えないかのうちに再生を止めた。

 嫌な動画を見てしまった。明るいサムネイルだったことや、投稿文に日付しか記載がなかったことから油断してしまった。

 嫌な汗をかいた気がして、腕をまくった。薄手の黒いカーディガンは、腕をまくる程度では何の違いも感じなかった。

 本物の動画か、加工された偽物かは分からないが、こういったものを面白半分でインターネットにあげる人間の気がしれない。

 ため息をつき、顔を上げると、鏡の中の自分と目が合った。

 違和感。見たことがある。自分の姿だから当然ではあるのだが、そういうことではなく、何かデジャヴのようなものを感じた。

 どこかで見た。どこで。

 いましがた、スマートフォンの中で。

 あの動画で。

 鏡に映る自分は、あの落ちてきた人間にそっくりだ。

 勘違いかもしれない。いや、勘違いであるべきだ。そんな事実はないのだから。

 黒いカーディガン。明るいデニム。よくいる格好だ。街には何人もいるだろう。

 連日見せられた不可解な『かわいそう』の文字がなければ、こんな妙な心配すらしなかったはずだ。

 じっとりと汗をかく。

 もう一度動画を再生しようとスマートフォンに手を伸ばす。確認するのが怖い。しかし杞憂であるならば確認したほうが安心が得られるはずなのだ。

 画面をの覗きこむと、トレンド欄は上から下までびっしりと『かわいそう』で埋められていた。

 かわいそう。かわいそう。かわいそう。かわいそう。

 異常な事態だと分かる。だが、どうすることもできない。上の方に表示されている『かわいそう』の文字をタップすると、先ほどの動画が表示された。

 躑躅の咲く花壇。明るく照らされたアスファルト。よく晴れた青空。落ちてくる人間。

 疑念を否定したくて、込み上げてくる吐き気を抑え込みながら最初からもう一度見る。もう一度。もう一度。

 何度見ても、その人は自分自身だとしか思えなかった。


 こんなの誰に話しても信じてもらえない。

 でもどうにかして否定したい。そう思っていた時に、このラジオの告知を見つけました。初回放送日は、まさしくあのトレンドで見た日付だったんです。

 この日にこの出来事がきっと起こるんです。この日に死ぬんです。嘘。死にたくなんてないんです。

 きっと読んでください。それを友達の家で聴きながら「やっぱりこんなこと起こるわけないじゃん」って笑いながら否定したいんです。考えすぎだったんだって、思い出に変えてしまいたいんです。

 よろしくお願いします。

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