56. 開発成功です
レオン様と動力源の開発をすることになってから一時間。
私達は工房に籠ってアイデアを出し合っている。
まだ良い案は出せていないけれど、少しずつ良くなっている。
「片方だけから湯気を入れられない構造が間違っている気がしてきた。両方から交互に入れられるようにすれば良いんだ」
「確かにそうすればどの位置からでも動かせますわね。上手く軸の動きに合わせて切り替えられれば良いのですけど……。
軸の動きをそのまま使ってみる、というのはどうでしょうか?」
思い付いたことをすぐに口にして、新しい紙に頭の中に浮かんだ形を描いていく。
「なるほど。もう一つ筒を作って、前後に動かして使うのか。
これなら、この回る部分から棒を伸ばして調整すれば、狙い通りに動きそうだな」
そう口にしながら、レオン様が私の書いた絵に書き足していく。
構造は複雑になってしまうけれど、魔法陣と違って道具さえあれば誰でも作れるような形にはなっている。
「あとは……ここにも空間を作って、水と触れるようにすれば良さそうですわね」
「その手があったな。あとは、こっちの棒をどこに付けるか、か」
「木の板で試しましょう」
こういう時は考えるよりも、実物と同じようなものを作って試行錯誤した方が良い。
だから適当な木の板を持ってきて、いくつかに切り分けることにした。
ちなみに、この木の板を切るのにも魔道具を使っている。
水を流す魔道具を使って水車を動かして、その力を糸のようなノコギリを回転させる。
そうすると、丸く切ることだって簡単に出来るのよね。
あまり強く押し付けてしまうと魔道具の力不足止まってしまうけれど、コツさえ掴めば手で切るよりも早い。
穴を開ける道具だってもちろん用意してあるから、中心に穴を開けていく。
「円盤は出来ましたわ」
「こっちも切れたよ。あとは穴を開けるだけだ」
この穴を開ける魔道具も同じ構造になっていて、少し変わった形の棒を回しているもの。
硬いものに一気に押し込むと止まってしまうけれど、これは柔らかい木だからすぐに穴を空けられた。
「これで揃ったかな?」
「ええ」
出来上がった部品をテーブルの上に置いて、絵の通りに組み立てていく。
最後に、湯気の出る位置を調節するための部品と繋ぐ棒を付けたのだけど……。
「これだと動かなさそうだな」
「この位置はどうでしょうか?」
「回してみよう」
半回転させてみると、やっぱり狙い通りの位置にはならなかった。
それから二時間以上、棒の長さを変えたり円盤に付ける位置を変えたり、何度も何度も試した。
中々狙い通りの動きにならなくて、一度休憩しようと思った。
でも、そんな時。
「今の、良い感じだったぞ」
「ええ、もう一回試しましょう」
「信じられない。成功なのか?」
「どう見ても成功ですわ」
ようやく思い通りの動きになった。
それが嬉しかったみたいで、満面の笑顔で私を抱きしめようとするレオン様。
記録も終えているから、私も彼を抱きしめ返した。
こんな姿を社交界で見せたら「はしたない」などと言われてしまうけれど、ここには私達以外に誰もいない。
「長かったな」
「ええ。夢みたいですわ」
一度は諦めかけたけれど、レオン様が諦めなかったから成功したのよね。
それに……。
「成功するとは思わなかったからか?」
「それだけではありませんわ。レオン様も楽しそうに実験していたから、嬉しくて。
一緒に魔道具開発を楽しむのが夢でしたの。諦めていたのですけど、こんなに早く叶うとは思いませんでしたわ」
誰にも話せていなかった、大切な人と同じことをして楽しむ夢が叶ったから、嬉しかった。
「そうだったのか。言われてみれば、俺も開発を楽しんでいたな」
「無自覚でしたの?」
「ずっと目的しか見えていなかったからね。
……これ以上は恥ずかしいから、そろそろ試作品を作ろう」
「はいっ」
返事をして、レオン様と一緒に錬金術の魔法陣の前に移動する。
それから絵を元に、部品を一つずつ作り出していった。
ちなみに、今回作っているものは馬車に組み込む前提だから、絵の通りの大きさで作っている。
「筒の大きさは良さそうだよ」
「ありがとうございます」
「この棒は少し長すぎる」
「分かりましたわ」
私が作った部品を組み立てているレオン様の言葉を聞いて、部品を作り直す。
そんな作業を十五分近く続けて、ようやく二個分の装置が出来上がった。
「とりあえず、これは外に持って行くよ」
「お願いしますわ」
無事に試作品が組み上がったから、実験のために庭に移動する。
それから、火を出す魔道具を水が溜まっている部分に当てる私。
しばらく待つと、狙い通り何もしなくても動き出した。
何回試しても、回る向きは同じ。
湯気が通る量を調整出来るようにしてあるから、試しに少なくしてみると回転も遅くなった。
逆に多くすると回転は速くなっていく。
「成功ですわ」
「ついにか。やっぱりルシアナは天才だ」
「レオン様の方が天才ですわ」
笑顔で言葉を交わす私達。
それからはしばらく何も話さずに試作品の様子を見ていたのだけど……。
「しかし、すごい音だな……」
「そうですわね……。魔物が寄らなければいいのですけど……」
「寄ってくると思う」
……次の問題が出てしまった。
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