49. 失敗しても
「とりあえず、試してみるよ」
「お願いしますわ」
レオン様の言葉にそう返すと、魔道具から少しだけ風の音が聞こえてきた。
でも、炎が噴き出すようなことは無かった。
試しに風が出てくるところに手を当ててみると、程よい熱さの風が包み込んでくる。
「こんな感じで使うのかな?」
「ええ。でも、少し風が強すぎたかもしれませんわ」
「乾かした後に整えるのだろう? 問題無いと思うが……」
「あまり風が強すぎると髪が痛んでしまうと思いますの。だから調整しないと売り物には出来ませんわ。
少し風魔法を弱めて欲しいですわ」
今は実験段階で、火魔法と風魔法の合計二つの魔法陣にそれぞれ魔力を流すことで強さを調整しないといけない。
だからレオン様にお願いして風魔法を弱めてもらう。
「こんな感じでいいかな?」
「ええ、ありがとうございます」
そう口にしてから、手を近付けてみる私。
でも、温かさを感じることは無かった。
「っ……」
代わりに、痛みに近いものを感じたから、咄嗟に手を引く。
火傷はしていなさそうね。
「大丈夫か?」
「ええ、思っていたよりも熱かったので、驚いただけですわ」
どちらか風魔法が弱くなると、温度が上がってしまうみたい。
反対に、風魔法を強めると温度が下がるのかしら……?
気になってしまったから、これも実験しなくちゃ。
「火傷はしていないか?」
「ええ。
次は風魔法を強めて欲しいですわ」
「分かった」
少しだけ風切り音が聞こえてきて、距離があるのに私の髪が揺らされる。
手を近付けると、あまり温かくない風を感じた。
乾いた風だけれど、このままだと乾くのには時間がかかりそうね……。
だから、今度は火魔法も強めてもらう。
「これで風魔法と火魔法、同じくらいの魔力になっているはずだ」
「ありがとうございます」
今度は程よい温度になっていた。
これなら、同じ太さの魔道鉄を使えば、風の強さを調整することも出来そうね。
「この魔道具は売りに出せそうですわ。手伝って下さってありがとうございます」
「どういたしまして。次の魔道具はどんなものなんだ?」
レオン様にそう言われて、今度はお湯を出すための魔導具を手に取る私。
これは髪を乾かす魔導具と違って、温度とお湯の量を調整出来るように作る予定のもの。
「これをお願いしますわ。この面が火魔法で、こっちの面が水魔法になっていますの」
私が試した時は熱湯が地面を抉る勢いで出てしまったけれど……。
「こんな感じで良いかな?」
「ええ」
試しに手を出してみると、少し熱いくらいのお湯がかかった。
「火魔法を弱めて頂けませんか?」
「これで良いかな?」
「えっと、もう少し強めで」
冷たい水になっていたから、調整は難しいらしい。
慎重に作らないと、簡単に火傷をしてしまう物が出来てしまいそうね……。
そう思っていたら、パンッと何かが弾け飛ぶ音がした。
その直後、水が止まったと思ったら炎が噴き出してきた。
「これは本当に失敗作でしたのね……」
「怪我は無いか?」
「大丈夫ですわ」
「壊してしまって申し訳ない。魔力の調整を誤ったようだ」
「レオン様のせいではありませんわ。こうなってしまう時点で失敗作ですもの」
魔道具が壊れるのは、何度も使うことで魔石が役目を果たさなくなった時だけ。
今回のように本体の蓋が弾け飛ぶような壊れ方をした時は、何かしらの欠陥があるということなのよね……。
だから、この魔道具は失敗した原因を探り終えたら処分することになる。
「そういうものなのか。
疑問なのだが、なぜ失敗作を大事にしまっているのだ?」
「失敗を省みないと、原因が分からないからですわ。
他の商会だと壊れたり失敗したものは直ぐに捨てているみたいですけど、私達は壊れたものも全て原因を探ってから捨てることにしていますの」
「なるほど。その原因を消していくことで信頼性が高い魔道具になるということか」
「ええ、そういう感じです」
レオン様が出した答えに頷く。
自分で言うと自慢のように聞こえてしまうかもしれないけれど、アルカンシェル商会が出す魔道具は壊れにくいと評判になっている。
衝撃を与えたら魔石が割れて壊れてしまうこともあるのだけど、正しく使っていれば他の商会が出している魔道具よりも長く使い続けられる。
性能や機能は控え目だけれど、使いやすくて安くて壊れにくいという理由で売れ続けている。
「……次はこれを試すのか?」
「これはゴミを受け止める布が破れてしまったので、こっちをお願いしますわ」
「分かった」
そんなやり取りに続けて、足元を照らす魔道具を手渡す私。
今度は、ぱっと見では何の変化も起きなかった。
昼間だから、淡い光が見えないのは当然よね……。
覗き込んでみたら、辛うじて光っていることは分かったけれど、これは夜に実際に使わないと分からないわ。
だから、今日の実験はここで終わり。
「手を貸してくださってありがとうございました」
「また必要になったら声をかけて欲しい。どんな感じで開発しているのか見れて楽しかったよ」
お礼を言うと、レオン様は笑顔でそんな言葉を返してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます