41. 魔道具があるから

「防衛線を突破されたというのは本当か?」

「はい! かの者は空高く跳躍し、我々の攻撃魔法をものともせずに飛び越えていきました! 

 現在追跡隊を向かわせていますが、このままですとあと一時間でアルカシエルに到着するものと思われます!」

「分かった。すぐに対策する」


 そんな声が通信の魔道具から聞こえてきて、この場にいる人達は揃って目を瞬かせた。

 どれほどのジャンプ力なのかは分からないけれど、軽く百メートルを超える防衛陣地を飛び越えたことは確実。


「化け物だな……」

「そんな脳筋と戦うことになるのか。ちょっと楽しみだな。聖女様の防御魔法の支援があれば死ぬことは無いだろう」


 そんな声も聞こえてくるけれど、そこに気の抜けた雰囲気は無くて、皆気を引き締めている様子。

 こんな状況になってしまえば、私も戦うことになるのよね……。


 私も跡継ぎ候補になっているから逃げることも許されるのかもしれない。

 でも、この戦いで負けてしまったら……お父様とは二度と会えなくなってしまう。


 だから私もここで戦う覚悟を決めている。


「ルシアナも戦うのか?」

「ええ。力は無くても、私には魔法と魔道具がありますから、戦力にはなると思いますの」

「そうか……。出来ることなら安全な場所にいて欲しいが、今の状況だと逃げ切れるかどうかも怪しいだろうな。

 今回は相手が相手だ。守り切れないことが無いと言い切れないから、ルシアナも身を護る対策はしておいて欲しい」


 普段のレオン様は何が起きても「必ず守り切る」と言ってくれているのに、今回は予防線を張ってきた。

 グレールの国王の実力を私は知らないけれど、レオン様は良く知っているはずだから、それほどまでに強い相手なのね……。


 ええ、ジャンプ力だけで防衛陣地を飛び越えるような人だもの。弱いはずが無いのよ。

 攻撃を受けてしまったら、私なんかだと命がいくつあっても足りないわ……。


 想像していたら、足が震えてきてしまった。


「無理はしないでくれ」

「大丈夫ですわ。私には魔道具がありますから……」


 防御の魔道具に、攻撃に使える魔道具もある。


 防御のものは普段から身に着けている指輪で、怪我をしそうな時に防御魔法と障壁魔法を出して攻撃を止めてくれる。

 他にも、魔力を流すだけで上級の魔法を使えるようにする魔道具もあるから、魔法での戦いは有利に進められるはず。


 でも、相手は化け物のような強さみたいだから、恐怖心を感じてしまう。




 ちなみに、上級魔法の魔道具を指輪の大きさに収めるのはすごく大変で、魔法陣を刻むだけでも半月もかかってしまった。

 私以外は使えない上に、危険が迫れば勝手に魔力を使うようになっているけれど。


 これは手放すことが出来ない大切なお守り。

 ちなみにレオン様用に作ったものもあって、少し前にプレゼントしてからずっと身に着けてくれている。


 彼にプレゼントしたものは、鍛錬の邪魔になるからと大怪我になる攻撃以外には反応しないようになっている。

 だから、実験する時は怖かった。


「防御の魔道具のことかな?」

「他にもありますの。この指輪達が戦いでは頼りになりますわ」

「五つもあるのか。五大属性の分かな?」

「ええ。これを使えば五つの上級魔法を詠唱無しに同時に使うことだって出来ますわ」


 初級魔法に限れば詠唱を省くこともできるけれど、中級以上は詠唱は必須。一言までに抑えることは出来ても、その一瞬は大きな隙になってしまう。

 それに、詠唱が必要な魔法は一つしか同時に扱えない。


 そんな魔法でも、儀式魔法を利用すれば詠唱を省略しながらも思い通りの魔法を使えるようになることに気付いて、そのままなんとか形に出来たのよね……。


「ちょっと待ってくれ、上級魔法を五つ同時にだって? 冗談……ではないんだな?」

「ええ。こんな感じで出来ますわ」


 全部に魔力を流して、五つの魔法をくるくると手の上で回して見せる。

 やっぱり、上級魔法は綺麗ね……。


 これを作り出したばかりの頃は上級魔法でずっと遊んでいたのだけど、才能の無駄遣いと自覚していたから言えなかったのだけど、今なら言ってしまっても許されるかもしれないわ。


「綺麗だな……。じゃなくて、こんなものがあるならもっと早く教えて欲しかった」

「この綺麗な光景を見る目的だけでしか使っていなかったので、教えられなかったのです……」

「宝の持ち腐れとはこのことか」


 関心半分、呆れ半分といった様子のレオン様。

 でも、今回の敵には魔法が効かなかったみたいだから、やっぱり怖いものは怖い。


「怖がらなくていい。どんな怪我をすることになっても、必ず守って見せる。

 だから、ルシアナには攻撃をお願いしたい」


 私の手を両手で包み込んで、そう口にするレオン様。

 戦いで頼られるとは思っていなかったから、少し戸惑ってしまう。


 でも、真っすぐ私の目を見つめてくる彼を見ていたら、怖がっているのが馬鹿みたいに思えてきた。

 レオン様は身体を張ってでも私も守ろうとしてくれている。


 私にできるのは、彼が攻撃されないように国王を倒すことだけ。


「分かりましたわ。防御はお任せしますね?」

「ああ、もちろんだ」


 そう口にする彼の手を取って、ぎゅっと握る私。

 彼の手からも優しい力が伝わってきて、私は笑顔を浮かべた。


 レオン様も笑顔を浮かべてくれていて、いつの間にか恐怖心はどこかへ行ってしまっていた。

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