40. 始まった戦い
「攻撃が始まったか……。
ルシアナ、君の父上のところに行こう」
知らせが入ってきてすぐ、そう口にするレオン様。
ちなみに、この知らせは私のお父様が通信の魔道具で受け取って、そこから私達に伝えられている。
攻撃が始まったら、対策のために作戦室に集まることになっているから、私はレオン様に続けて立ち上がった。
侍従は入れられないことになっているから、レイニとレティシアは連れて来れない。
それに、聖女様も密偵にされている可能性があるから、作戦室に入ることは許されていない。
「私達は行かないといけないから、続きをお願いしても良いかしら?」
「ええ、もちろんです」
「攻撃が始まったのでしたら、もっと用意しないといけませんね」
そういう理由で、私は聖女様達に魔導具作りの続きをお願いしてから工房を後にした。
「レオン君、ルシアナ。戦況のことの前に話すことがある。
グレールの聖女候補、リーシャ嬢についてだ」
作戦室に入ると、お父様からそんなことを言われた。
あまり会いたくない人の名前に、思わず身構えてしまう。
「二時間ほど前だが、リーシャ嬢が亡命を求めてきた。
彼女はあんな性根だが、貴重な治癒魔法の使い手だ。利用価値はあると見て監視を条件に受け入れたが、ルシアナが嫌だったら追い返すことも考えている」
続けてそんな説明をされたから、私は固まってしまった。
脳裏に浮かぶ嫌がらせを受けた記憶の数々。
子供じみたものが多かったけれど、こんな出来事もあった。
お花を摘んでいる時に水をかけられた時、驚きで悲鳴を上げてしまったところを嘲笑されたのよね……。
おまけに私が粗相をしたと噂を流されたから、誤解を解くだけでも一週間かかってしまった。
そのお陰で魔道具が作れなかったから、少し恨んでいる。
仕返しをしたいと強く思う事はないけれど、機会があれば一矢報いたい。
それに、治癒魔法の魔道具作りに利用できるから、追い返すことは勿体無いのよね。
そう思ったから、機会を失わないように、こう口にした。
「受け入れても構いませんわ。治癒魔法を扱える人の魔力は使い道もありますもの」
「分かった。悪さが出来ないように監視は付けるが、何かあったら伝えて欲しい」
「分かりましたわ」
私が軽く頭を下げると、お父様は続けてこんなことを口にした。
「ここからは今回の戦いについてだ。
戦況は悪くないものの、怪我人は出てしまっている状況だ。
グレールの国王が前線に出てきているから、攻めるに攻めれない。クライアス殿も前線に出て応戦しているが、あの脳筋相手にいつまで持つかは不明だ」
淡々と今の状況が説明されていく。
グレールの国王があり得ないくらい強いことは有名なお話。でも、あの自分勝手な人は敵に居て欲しくはないけれど、味方にも居て欲しくないのよね……。
でも、今は騎士さん達とレオン様のお父様を信じたい。
彼らにはグレールの国王にも勝てる力があるはずだから。
「現状の作戦は戦線の維持だけだ。
しかし、本日より仲間に入ったインディクス公爵家を含むグレールの三大公爵家からの援軍が到着し次第、攻勢に出る予定だ。
細かい作戦はクライアス殿が指示しているが、兵站はこちらで管理しているため大まかなものは私が指示する。
作戦計画はここに書いた通りだが、反対意見はあるか?」
黒い板に白い文字で書かれている作戦内容に目を通す私達。
作戦自体は防衛戦なら普通の内容なのだけど、今戦いが起きている場所の戦力が薄くなっていることが気になってしまう。
「お父様、ここの戦力が少ない理由をお聞きしても?」
「ここは魔道具による防衛線が完成している場所だから、誤射を防ぐために敢えて少なくしている。
戦争で一番恐ろしいのは、敵ではなく味方から攻撃されることなんだ」
不思議に思っていたことを問いかけると、そんな答えが返ってきたから驚いた。
今のアスクライ公国は魔道具や魔法の使い手による攻撃魔法で防衛線を敷いている。
作戦図を見ると、遠距離で魔法を撃ち合っているのだと分かる。
もしも混戦になったら、味方を巻き込んでしまうこともあり得るのね……。
攻撃魔法が味方に効かないように出来たら、もっと戦いやすかったに違いないわ。
「分かりましたわ。ありがとうございます」
私がそう口にした後は、他の人達からいくつか質問が出ていたけれど、お父様はその全てに答えて疑問を解決していた。
そんな時。
「報告致します! グレールの国王に防衛線を突破されました!」
お父様の魔道具から、そんな声が聞こえてきた。
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