22. 動きを探るために

 皇帝陛下から公女と呼ばれる。

 そうなってしまえば、これから建国するアスクライ公国の代表とアルバラン帝国の代表としての会談になってしまう。


 そんな重責は私には務まらないから、陛下の問いかけにこう返すことにした。


「今はただの商人としてここに居ますの」

「分かった。では、今回は商人として接することにしよう。

 次に会う時は、公女と皇帝として話がしたい」

「分かりましたわ」


 幸いにも陛下は私の話を受け入れてくれたから、すこしだけ緊張が和らいだ。


 それからは商談になって、色々なものを取引することになった。

 お互いに利益も不利益も出ない条件だけれど、帝国御用達になればそれだけ評価も上がることになる。


 だから、今回は利益は気にしない。

 赤字になる条件だったら……皇帝陛下が相手でもお断りしたかもしれないけれど。


 平和を重んじているお方だから、お断りしたとしても酷い目には遭わないはずだから。


「では、これからよろしくお願いしますわ」

「こちらからも、お願いする」


 そんなやり取りを交わして、この商談は無事に終わった。


「お疲れさま。大丈夫だった?」

「ええ、噂通りの優しいお方でしたわ」


 陛下とのお話が終わると、すぐにレオン様に声をかけられた。

 いつの間にか皇太子殿下とのお話が終わったみたいで、真後ろで待っていたみたい。


「そうか。それなら、公国も安泰だな。

 もう帝国との同盟は決まっているから」

「同盟ですか? そんな話、聞いていないのですけど……」

「たった今決まったことだからね。皇太子殿下が軍部を任されていることは知っているかな?」


 初耳だったから、首を振る私。

 でも、この言葉でレオン様が皇太子殿下との交渉で同盟を成立させたことは分かった。


「ええ」

「俺は公国の兵部を任されることになる。だから、早いうちに同盟をと思っていたんだ」

「そういうことでしたのね」


 レオン様の独断ではないと思うけれど、アスクライ公国の将来は安泰のように感じられた。

 この後のパーティーはレオン様や他の方々とのダンスを楽しんだりして過ごした。



   ☆



 翌日、私達は皇帝陛下が主催される隣国の王族を歓迎するパーティーに参加することになった。

 その王族というのがマドネス王子だから、最初は参加したくなかった。


 けれども……。


「あの王子の傍若無人ぶりを見せたら、面白いことになると思うよ。

 それと、向こうの動きも探っておきたいから、俺だけでも行くつもりだ」


 ……レオン様の言葉の誘惑に負けて、参加することに決めてしまったのよね。


 畜音の魔道具は用意してあるから、パーティー中に冤罪をかけられても潔白を証明できるはず。

 だから、マドネス王子達に復讐するつもりで参加することにした。その方が気分も楽になるから。



 今は馬車でパーティー会場の皇城に向かう道中で、私達はとある武器について話している。


「ブーメランという武器は知っているか?」

「ええ。遠方の魔物を攻撃するための武器ですわよね?」


 矢と違って自ら戻ってくる武器だから、資金に余裕がない冒険者が使っていることが多いというのは有名なお話。

 そんな利点が多いように見えるこの武器には欠点があるのよね……。 


「ああ。だが、戻ってくるときに受け止め損ねると、攻撃者に刺さることがある危険な代物だ。

 その武器を、帰ってきても刺さらないようにする方法を探せないだろうか?」

「不可能ではないと思いますわ。でも、本体に魔道具の力を持たせることは出来ませんの」


 魔道具は便利だけれど、衝撃に弱いのよね。

 だから、投げる武器に組み込むだなんて言語道断。すぐに壊れてしまう。


「手に怪我さえしなければ良いから、何かいいアイデアがあったら教えて欲しい」

「分かりましたわ。今ある魔道具だと、護身用の風魔法を使うものが使えると思います。

 でも、調整が難しそうですわ」


 そのまま使ったら弾き飛ばしてしまうことは間違いないから、少し実験した方が良さそうね。


 ――そんな風に結論付けてから少しして、私達は無事に会場に入ることが出来た。


「あの馬鹿――こほん、王子殿下は何をしているんだ?」

「私の悪口を言っているようですわね。それと、死刑にするように要求する声も聞こえますわ。

 でも、相手にされていないみたいです」


 遠くでの会話でも鮮明に聞こえるようになる集音の魔道具を通して、会話を聞く私。

 聞いていたら私まで苛立ちを覚えてしまったから、魔力を止めたて音を消した。


「つまり、ただの恥晒しか。国が違えば全力で止めるが、今はもう関係ないな」

「相手が平和主義の国だから、民のことを心配する必要もありませんものね」


 マドネス王子殿下は必死に私を死刑にするように要求しているけれど、この場にいるリーシャ様とマドネス殿下以外の全員が不機嫌になっていることに気付いていないご様子。

 その頭の中身は、脳ではなくご自慢の筋肉が詰まっているのでしょうか?

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