8. 壊れないように

 バールフィルに入った日の翌朝。

 私はここの支部長と話をしていた。


「このゴムレドン頬袋ほおぶくろですが、壊れやすい荷物の間に挟んだら破損防止になると思いまして。検討していただけないでしょうか?」


 今回の話題は、商品の破損対策。

 激しい馬車の揺れから守るために、何枚もの布を巻いて壊れないようにしているけれど、石を踏んだりすると壊れてしまう。


 商品の破損は損失につながるから、私も対策を考えていたのだけど、ゴムレドンの頬袋を使う発想は無かった。

 ちなみに、ゴムレドンの皮は火で熱すると溶けて違う形に出来る。


 だから、私はゴムレドンの皮から使った仕切り板を試したのだけど、陶器は壊れなくても魔道具が壊れることは防げなかった。

 風魔法で常に浮かせることも考えたけれど、魔力消費が激しすぎて実際には使えなかった。


 頬袋でも効果は変わらないと思っていたのだけど……。


「こんな風にお皿を落としても割れなかったんです」

「そんな効果があったのね。革をそのまま使うよりも、空気を入れた方が効果があるのね。貴女の意見、参考にさせてもらうわ」

「新商品、楽しみにしていますね」


 ここでは商品の開発はしていないから、このアイデアは本部についてから研究することに決めた。

 でも、ひとつだけ気になることがあったから、私はこんな質問をしてみた。


「他に頬袋は無いかしら?」

「あと十個ほどあります」

「四個もらっても良いかしら?」

「はい。お好きなだけお持ちください!」


 頬袋を受け取った私は、綺麗な四角形になるように馬車の荷台の床に並べてた。

 それから、支部の人達にお願いして、その上に二人掛けのソファーくらいの大きさの木箱を置いてもらう。


「これなら石を踏んだ時の衝撃を和らげてくれると思うのだけど……上手くいくかしら……?」

「不安定なので、倒れないように軽く縄で吊るした方が良いかと」

「そうね。お願いしてもいいかしら?」

「お任せください」


 指示を出している間に昨日から同行しているジークが姿を見せたから、荷物が倒れないように対策を終えてから出発することになった。

 ちなみに、ゴムレドンの頬袋は思っていたよりも頑丈で、荷物の上から私が座っても、少し沈み込むだけで穴が開いたりはしなかった。


 これなら、荷物と同じ状況を体験出来るわ……!

 私が内心で喜んでいると、ジークが不思議そうな顔でこんなことを訪ねてきた。


「商会長、今日は荷物の上に座られるんですか?」

「実験のために少しだけよ」


 本当に効果があるのかは、身をもって体験した方が分かりやすい。

 だから、こうして荷物の上に座ることにしたのよね……。


 ゴムレドンの皮から作った仕切り板の時だって、馬車の壁に貼り付けて試したのよね……。

 あの時は効果が薄いと分かっていても実際の食器で試したけれど、私の判断は間違っていなくて、食器は一部が割れていしまっていた。


「分かりました。転ばないでくださいよ」

「ええ、ありがとう」


 少しの間だけだから、クッションは敷いていない。

 でも、馬車が動き出してから、不愉快な振動はあまり感じなかった。


 足を床に付けていると不快な振動を感じるけれど、離していたら馬車の中とは思えないくらい快適だった。

 木箱の上に直接座っているからお尻は痛くなりそうだけれど、これなら眠ることだって出来そうね。


「乗り心地はどうですか?」


 この馬車は荷台と座席のある場所が繋がっているから、私の方に振り向いたジークと目が合った。

 ちなみに同乗している人は彼以外に三人いるけれど、今は資料を読み込んでいるから話しかけることなんて出来ない。


「すごく快適よ」

「それは良かったです」

「馬車の荷台ごと頬袋の上に乗せたいくらいよ」


 流石に耐えられる気がしないけれど、頬袋のように中が空洞になっている物を皮から作れば、上手くいくかもしれない。

 このことに気付いたのは、思い付きで言葉にした後だった。


「それは良いですね。実際に乗れる日を楽しみにします」

「ええ、頑張って完成させるわ」


 馬車の大きさになると私一人で作ることは無理だけれど、一緒に開発をしてくれる人たちがいる。

 だから、久々の本部入りがすごく楽しみになってしまった。


「商会長、お隣座ってみてもいいですか?」

「ええ。皆で交代で使いましょう」


 女性の従業員に声をかけられ、快諾する私。

 この良さを共有すれば、新しい馬車を開発することの賛同も得やすくなる。


 断ることなんて出来ないわ。

 

「いいのですか? ありがとうございます」

「ええ。私だけが使っていたら皆に申し訳ないもの」


 返事をしながら、席に敷いてあるクッションを剥がす私。

 この後は、荷台が一番の人気席になってしまったから、おかしくて苦笑してしまった。

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