一撃鍛冶師チャンネル~異世界ダンジョンで最強武器生成マンと化したコミュ障俺、知らないうちに配信されて有名人になってたらしい~
和成ソウイチ@書籍発売中
第1話 【掲示板回】異世界公式ストリームとコミュ障
【ゆめKo】いせスト実況やろうぜ【nakana】:ライブチャットフィード
[スターダスト]:ゆめKo鬼強 そして可愛い(18:55)
[電波ポップ]:相変わらずのnakana実況 台詞がいちいちキモい(褒めてます)(18:55)
[ガジェッたん]:どうしてあんなにゆめKoの動きが分かんだろなー(18:55)
[虹色ぱんだ]:ヒキニートにはわかるまい(18:56)
[ゼウス]:>>虹色ぱんだ おい俺ちょっと表出ろ(18:56)
[踊れファイヤー]:草(18:56)
[スターダスト]:キタァァァァ 一閃!からの神エイム!(18:56)
[コンパス]:うおおおおおっ(18:56)
[電波ポップ]:nakanaも大興奮 うるせえw(18:56)
[ガジェッたん]:やっぱキメは遠距離かー 近接武器で覇権取れんのかな逆に(18:56)
[スターダスト]:なぜかダメージ効率低いよね近接 なんでだろ(18:56)
[虹色ぱんだ]:ロマンが足りない(18:56)
[イノ]:ゆめKoがハンマー持ったら萌える(18:56)
[ゼウス]:それな ぜひ俺の尻に(18:56)
[虹色ぱんだ]:>>ゼウス おまわりさんこいつです(18:56)
「コメント、盛り上がってる」
仕事帰りの電車ホームで、スマートフォン片手に
羨ましそうな口調とは裏腹に、彼の表情は変化に乏しかった。
喜怒哀楽が分かりにくて、ロボットみたい――刻哉の雰囲気を皆がそう言う。
手にしたスマートフォンには、美麗なキャラクターたちがモンスターを鮮やかに狩る動画が映っている。画面端には、動画に対するコメントで埋め尽くされていた。
『nakana』は有名な実況者のハンドルネーム。動画を面白く盛り上げる実況者には多くの視聴者が集まる。
そして実況者nakanaの推しているキャラクターが、『ゆめKo』。鮮やかな深紅の髪が目を引く美少女である。
もっとも、これはあくまで動画用にデフォルメされたアバターである。
ただ――。
「この『ゆめKo』ってひと、
動画共有プラットフォーム『異世界公式ストリーム』――通称いせスト。
三ヶ月前、異世界とともに突如として世間に現れた、謎の動画サイト。
そこで毎日アップされる無数の動画の登場人物たちは、すべて異世界で実際に暮らしている人たちだ。
本名は伏せられ、外見はアバターに取って代わられているものの、彼らは皆、異世界内で生き生きとしている。
対する自分はどうか――と刻哉は思った。
彼は今年十九歳。国内最大手自動車メーカー『ジェイツー』の名を冠した歴史資料館で働いている。
高卒だ。
中学、高校、大学と受験に失敗。
実家がジェイツーの社長一族――つまり、良いところの次男坊だったために、『不出来な』刻哉は家族全員から『いないもの』として扱われてきた。
去年、十八で成人したのを機に母方の祖父母の元に養子に出された。
書類上は自分の意志で実家との縁を切ったことになっているが、それが建前上のものであることを刻哉本人が一番よく知っている。
有り体に言えば、追い出しだ。出て行けと、尻を蹴り上げられたのだ。
だが曲がりなりにも社長一族の体裁は保たないといけない。
そこで、現社長――つまり刻哉の父が私費で建てた歴史資料館に、縁故採用で放り込まれたというわけだ。
当然のように、職場でも冷たい仕打ちを受けている。
今日は、地下書庫に閉じ込められる嫌がらせを受けた。何とか非常レバーを使って出てきたときには、職場には誰もいなかった。皆、刻哉を置いて帰ってしまったのだ。
見かねた警備員から「あんたこの職場、向いてないんじゃないか」と忠告された。つい三十分ほど前のことである。
――異世界で生きる人たちと比べて、自分はどうか。
控えめに言っても、生き生きとはしていない。悪意にマヒしきったような、それこそ、ロボットのような表情をしている。
刻哉は緩慢な動きでスマホを操作する。無数の異世界動画を惰性で見る。
昔は、もっと色々出来ていたような気がする。でも昔って……いつのことだろう。思い出せない。
このまま、精神的にもすり減っていくくらいなら――。
「異世界ダンジョン、行ってみたいな」
電車の到着を報せるアナウンスが流れる。車両の端っこに座り、再びスマホを操作。
別の動画コメントに、目がとまった。
[椎何忠]:クソスレ いますぐ閉鎖すべき(19:22)
[グリッター]:でた 伊勢エビ乙(19:23)
[不思議なラン]:伊勢エビってなんぞ(19:23)
[太陽☆マジェスタ]:>>不思議なラン いせストにごちゃごちゃ言ってるウルサイ人たちを言いますわ ほら、伊勢エビって赤くてトゲトゲしたイメージあるでしょ(19:23)
[パパイロット]:>>太陽☆マジェスタは美少女(19:23)
[椎何忠]:たらばガニは黙っててください(19:23)
[不思議なラン]:……たらば?(19:23)
[太陽☆マジェスタ]:>>不思議なラン いせストを楽しんでる人たちをエビさんたちが揶揄したネットスラングですわ ほら、「異世界に行け たら 」って(19:23)
[キャリコマ]:今日も世界は平和(19:23)
[椎何忠]:平和? 冗談じゃない。今も見世物になってる人たちのことを考えろよ(19:24)
[パパイロット]:>>椎何忠がこの中で一番視聴しているに1万ゴル(19:24)
[グリッター]:いせスト通貨かよw そして微妙に高い(19:24)
[不思議なラン]:異世界に落ちた人、ここのスレッドって見てるのかな(19:24)
[キャリコマ]:見てないんじゃない? 反応ないし(19:24)
[椎何忠]:たらばガニどもは自分が同じ目に遭ったらどう思うか考えるべきだ(19:24)
[グリッター]:うぜぇ(19:25)
[パパイロット]:乙(19:25)
[不思議なラン]:いやでもさ、マジでいせストの人たち、どうなってんだろな ぶっちゃけ、生きてんの?(19:26)
[キャリコマ]:いやいや動いてるじゃん 怖いこと言うなよ(19:26)
[※※※]:だけどさ(19:――)
[※※※]:もしかしたら
[ ]:とんでもないことになってるかもよ 異世界
――目を通しているうちに、刻哉はうたた寝してしまっていた。
途中から夢と現実がごっちゃになって、コメントの内容が頭に入ってきてない。
目的地のアナウンスに顔を上げ、スマホをしまう。
「それでも、今よりはマシだよ。きっと」
誰に言うともなくつぶやいて、刻哉は電車を降りた。
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