3

「裏でこいつに勉強させてた。

この世の暗い部分。」




「夜の店だからね、そういう子も多いんだよね。」




スーツ姿の女性が楽しそうな顔で笑っている・・・。

その女性を見ながら私は自然と口を開いた・・・




「でも、皆さん素敵な笑顔でした。」




小さな声で呟いたのに、天野さんもスーツ姿の女性も私を見た。




「今が1番幸せな顔でいられる写真を選んでいる・・・そんな笑顔でした。」




「・・・そうだな。」




天野さんが優しい笑顔で私に笑う。

そんな天野さんをスーツ姿の女性が優しい笑顔で見ているので、瞬きをした。




「この方も天野さんのお母さんなんですか?」




そしたら天野さんが今日1番の大笑いをした。

大笑いをしながらも何度も頷き・・・




「俺、名字が名取から天野に変わっただろ?

こっちの母ちゃん夫婦と養子縁組してもらったんだよ。

俺の下の弟4人も一緒に。」




「だから名字が変わったんですか。」




天野さんは3月に“名取さん”から“天野さん”に名字が変わっていた。

深くは知らなかったけれど、このお母さん夫婦と養子縁組したらしい。




「時間遅くなったな、送ってく。」




天野さんが駅の方ではなくタクシー乗り場に向かおうとするので、慌てて駅の方に向きを変えた。




「まだ電車があるので大丈夫です!」




「最寄り駅についてからも心配だからな。」




「大丈夫ですから・・・。」





私が駅の方に向かって歩きだすと、天野さんもすぐに並んで歩き始めた。





そして・・・





「俺の部屋来る?」





と、凄いナチュラルに聞いてきた・・・。





驚き固まっていると、天野さんが小さな声で笑い・・・

私の手に、指に・・・天野さんの指を優しく絡ませてきた。




「あの・・・っ」




「まだ処女は貰わねーから。」




天野さんが少し照れたような顔で・・・

そんな顔で私を見下ろしてきていて・・・。




「天野さん・・・私っ」




「お前は処女だよ。」




“処女じゃない”

そう言おうとしたら、天野さんが被せるようにこう言ってきた。




それに泣きそうになる・・・。




だって、私は処女ではないから・・・。




なのに天野さんがこんな風に言ってきて・・・。




悲しくなる・・・。




悲しくて、泣きそうになる・・・。




そんな私の手を天野さんが優しく引く・・・。




「お前は処女だよ。」




またそう言って・・・




私の手を優しく引き、歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る