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「裏でこいつに勉強させてた。
この世の暗い部分。」
「夜の店だからね、そういう子も多いんだよね。」
スーツ姿の女性が楽しそうな顔で笑っている・・・。
その女性を見ながら私は自然と口を開いた・・・
「でも、皆さん素敵な笑顔でした。」
小さな声で呟いたのに、天野さんもスーツ姿の女性も私を見た。
「今が1番幸せな顔でいられる写真を選んでいる・・・そんな笑顔でした。」
「・・・そうだな。」
天野さんが優しい笑顔で私に笑う。
そんな天野さんをスーツ姿の女性が優しい笑顔で見ているので、瞬きをした。
「この方も天野さんのお母さんなんですか?」
そしたら天野さんが今日1番の大笑いをした。
大笑いをしながらも何度も頷き・・・
「俺、名字が名取から天野に変わっただろ?
こっちの母ちゃん夫婦と養子縁組してもらったんだよ。
俺の下の弟4人も一緒に。」
「だから名字が変わったんですか。」
天野さんは3月に“名取さん”から“天野さん”に名字が変わっていた。
深くは知らなかったけれど、このお母さん夫婦と養子縁組したらしい。
「時間遅くなったな、送ってく。」
天野さんが駅の方ではなくタクシー乗り場に向かおうとするので、慌てて駅の方に向きを変えた。
「まだ電車があるので大丈夫です!」
「最寄り駅についてからも心配だからな。」
「大丈夫ですから・・・。」
私が駅の方に向かって歩きだすと、天野さんもすぐに並んで歩き始めた。
そして・・・
「俺の部屋来る?」
と、凄いナチュラルに聞いてきた・・・。
驚き固まっていると、天野さんが小さな声で笑い・・・
私の手に、指に・・・天野さんの指を優しく絡ませてきた。
「あの・・・っ」
「まだ処女は貰わねーから。」
天野さんが少し照れたような顔で・・・
そんな顔で私を見下ろしてきていて・・・。
「天野さん・・・私っ」
「お前は処女だよ。」
“処女じゃない”
そう言おうとしたら、天野さんが被せるようにこう言ってきた。
それに泣きそうになる・・・。
だって、私は処女ではないから・・・。
なのに天野さんがこんな風に言ってきて・・・。
悲しくなる・・・。
悲しくて、泣きそうになる・・・。
そんな私の手を天野さんが優しく引く・・・。
「お前は処女だよ。」
またそう言って・・・
私の手を優しく引き、歩き始めた。
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