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数分経った時、1人の社員情報に載っている顔写真からあの男性を見付けた。

さっきの顔とは違い、真面目そうな顔をしている男性だった。




その男性の社員情報をプリントアウトし、人事部長の元へ・・・。




「部長、あの・・・この方が少し気になります。」




さっきの男性の社員情報を部長に手渡すと、部長は社員情報を見ながら苦笑いをした。




「安田か・・・。

昨年度降格と異動処分になったんだよな。

ブライダルの方のグループ会社に所属してて、女性社員も多いからそこでセクハラ問題になってな。」




「そうでしたか・・・。」




「どんな雰囲気だった?」




そう聞かれ、あの男性を思い出す・・・。




「私のことを厭らしい目付きで見てきたのもそうですが、あれは・・・」




言葉を切ってから真面目な顔をしている部長を見詰めた。




「お酒を結構呑んだ男の人が女の人に見せる・・・“気”が抜けたような感じでした。」




「気が抜けたような感じか。」




「ただの気ではなくて、なんというか・・・。」




どう説明しようか悩んでいたら・・・




「酒飲むと“気”が大きくなるんだよ。」




天野さんがデスクから笑いながら言ってきた。




「で、いつも張り付けてる“気”はどっかに消え去る。

そのオッサンは仕事モードの“気”が消え去ってたんだな!」




「しかも、男ってお酒呑むと女の前では変な“気”が大きくなるからね~!!」




天野さんに続き木葉さんも加わった。

2人の補足説明により部長がさっきよりも真面目な顔になり、私を見た。




「調査の依頼をしてみるよ、ありがとう。」




「はい・・・。」




部長にお辞儀をしてから、天野さんと木葉さんにもお辞儀をし人事部の部屋を出た。




珈琲店に戻り“人事部にいます”の看板を外した。




私は・・・人事部珈琲店の店長。

今年の2月1日、私の入社日に合わせてこの会社には珈琲店がオープンした。




福利厚生の一環として珈琲は無料。

チェーン店のカフェのバイトだった私が淹れる珈琲だけど、高級器具と高級珈琲豆で淹れる珈琲は好評だった。




でも、それは表向きで・・・。




私が本当に任されている仕事は・・・




“社員のメンタルヘルス不調の早期発見”




だった・・・。




昔から“相談窓口”は設置していたけれど、実際は機能していなかったらしい。

そこで天野さんが私を採用した・・・。

チェーン店のカフェのバイト経験しかない私を・・・。




そんな私だから、藤岡副社長は最初は渋っていた。

でも最終的に私の入社を認めてくれ、天野さんが面白そうな顔で考えた“珈琲店”についても藤岡副社長がすぐに承認をした。




そして、2月1日・・・

私の入社日に合わせてこの表向きの珈琲店が出来上がった。

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