7
18時の定時になる直前、店内には長めの列が出来る。
これから残業する方達や営業帰りの方達がテイクアウトしていくから。
時間が掛かることは全社員が知っているので勿論文句は言われない。
待っている間もその場に居合わせた社員同士で仕事の話をしたり雑談をしたりと、楽しく過ごせているからかもしれない。
その光景をアイスコーヒーを作りながら少し眺め、自然と笑顔になった。
「瞳ちゃん、お疲れ~!!」
人事部の部屋に戻ると女性の木葉さんが明るい声と笑顔で迎えてくれた。
それに笑顔で返事をすると・・・
「剛士(たけし)、今日はジムの日だから先に帰るって!!」
剛士とは天野さんの名前で・・・。
天野さんが先に帰る時は毎回木葉さんに伝言を頼むことが多い。
でも・・・
「そうですか。」
毎回これしか言えない。
だって、一緒に帰っているわけでもないし、定時後に何かを約束しているわけでもないから。
今日も珈琲店は少し残業になってしまって、これからまたパソコン作業・・・。
午後の報告書を作成しなければいけない。
きっとある程度タイピングが出来る人なら5分くらいで終わる作業なのに、私は30分くらい掛かってしまう・・・。
パソコンは苦手。
パソコンというかキーボードを打つのが苦手。
これは“慣れ”や“回数”をこなす必要があるから。
両手を広げぎこちなくキーボードを打つ自分の手を見下ろす。
そしたら、私の指を開いた天野さんの優しい指の場面がハッキリと浮かび上がってきて・・・
今の私の指と重なってしまった・・・。
その時に感じた天野さんの体温や匂い、私の指に触れた天野さんの優しい指・・・。
全てを鮮明に思い出す。
その全てが鮮明に思い出せてしまう・・・。
その時に感じた全てを。
あの時に感じた緊張も、止めた呼吸も、煩くなった心臓の音も、天野さんからの言葉も。
全てが鮮明に思い出せてしまう・・・。
顔だけでなく全身が熱くなってきた・・・。
でも、私の指を開いた天野さんの指の場面が重なったお陰で、私の手は開かれたままでいられた。
ガチガチに固まってはいるけど・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます