第67回 下り坂
「私たちの話を聞いてください」
ナーサが薬に狂っている最中、クレイピアが訴えかけてきた。
話を聞けだと?
ユーナの疑い、ナーサの暴走と堕落で手一杯の状況で、たかが小娘一人を聞けだと?
「ナーサをこんな風に追い詰めたのは、アオコさんたちです」
「……」
「私だって、ナーサが薬物に頼るようになったのは悲しい。でも必ず、元のナーサに戻るはず。そして、薬は使い方次第で人々を苦しみから救うものになると、証明されるはずです」
「黙っていろ」
「……ふふ、どのみち、ナーサを公に裁くことはできませんよね」
この女、ただの小娘じゃないな。
クレイピアの言う通り、ナーサが薬物中毒である事実は伏せなくてはならない。
確実に失脚する。皇帝の座が空いてしまう。
カローの平和を維持するための、絶対的権力者を失うわけにはいかない。
「どうするつもりですか。アオコさん」
「身の程知らずが」
薬物中毒の皇帝が敷こうとしている薬の合法化。
それを食い止めるには根本にある、売人の壊滅が絶対。
ユーナを見つけださないと。
「ナーサを、外に出すな」
「えぇ、落ち着くまでは」
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とりあえず私の権限を利用して、街を巡回する警備兵たちの数を増やした。
いったいどこで、誰が薬を売っているのか、小さな情報でもいいから集めるように下知する。
もちろん、ユーナの捜索も。
「はぁ……」
このまま家に帰ってリューナの看病をしたいが、もうひとり、様子を伺いたい人がいる。
「ルルルンさん」
シーナの家に訪れる。
一人娘ナーサは、おそらく当分は帰れない。
だからこそ、会いにきたのだ。
「こんばんわ。アオコさん」
ベッドで上半身だけを起こしたルルルンさんが微笑む。
ずいぶん、老けたな。
彼女だってまだ三〇代後半。
まだ稀代の美しさが保たれていてもおかしくないのに、顔にはシワが増え、髪も白くなってしまっている。
足腰も弱く、すっかり寝たきりだ。
六〇代と言われても納得してしまうほどの老化。
病気ではない。医者曰く、単純な老化らしい。
「元気そうですね」
「ふふ、皮肉?」
「あ、いや」
「ふふふ」
なぜこうも老け込んだのか。
医学的にはまったく不明だが、ルルルンさん本人だけは悟っていた。
生涯を捧げた者がいなくなり、全身に漲っていた気力が抜けたから、らしい。
「ナーサはどう?」
「まあ、ぼちぼちです」
「そう。あの子、最近ほとんど家に帰らず仕事ばかりしているから」
よかった。と安堵すべきか。
ルルルンさんは知らないのだろう。ナーサが薬物に依存していることを。
「ごめんなさいね。親として、なんの役目も果たせなくて」
「気にしないでください。私が責任を持って、育てます」
無責任な約束だ。
私はナーサを理解しきれなかった。
自分で自分が嫌になる。
「また、来ますね」
早くリューナに会いにいこう。
あぁクソ。体が足りない。時間が足りない。
ユーナ、ナーサ、ルルルンさんの体調、リューナの病。
私がシーナから託されたものが、零れ落ちていく。
どうしてこんなことになってしまったのだ。
夜道を全速力で駆けていると、
「アオコ様!!」
警備兵に呼び止められた。
「拘束しました。薬の売買を仕切っている者たちを」
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