第65回 ユーナの秘密

 ベキリアの夜の店を仕切っている女を取り押さえた。

 酒場、風俗、賭場、あらゆる欲を支配する中年の女だ。

 こいつならユーナについて知っているはずだ。


 罪はないが、しばらくは拘束させてもらう。


「すみません、少し話を」


 ベキリアの牢にぶち込み、ただ事ではないと理解させる。

 異様な空気を感じてもなお、彼女はどこか仏頂面で、余裕を帯びていた。


「私になんのようだい。ちゃんと税金は払ってるよ」


「ユーナ、知ってますよね?」


「……前の皇帝の妹さんだろ? そんなのが私となんの関係があるってんだい」


 めんどくさいな。


「どこにいますか? 答えてください。でないと、あなたの店を潰します」


「ふん、やれるもんならーー」


「わかりました」


 適当な警備兵を呼び出す。


「こいつが所有している酒場をすべて燃やしてください」


「え」


「燃やしてください。いますぐに」


 警備兵が「はい!!」と返事をした直後、女性は口を開いた。


「わ、わかったよ。ユーナには黙ってるって約束したんだけど、しょうがない」


「ユーナはどこですか?」


「どこですかって……カローだよ」


「ふざけるな!!」


「ふざけちゃいないよ。カローの首都へ向かった。それ以降は知らないよ」


 首都へ?

 どうして? 会いにくるなら、先に手紙を出しているはずなのに。

 まさかサプライズとでも? いや、だとすれば遅すぎる。

 ユーナが行方不明になってどれだけ経っていると思っているんだ。普通ならとっくに私の家に到着している。


 なら、道中で何かがあったとしか……。


「ひとりで?」


「仲間がいるさ」


「仲間?」


「ここで知り合った荒くねもん共だよ」


「……なにがあったの、あの子に」


 女性がクスクスを笑い出す。

 人を小馬鹿にしたような耳障りな声。


「ユーナの言っていた通りだね」


「は?」


「あんたはいつも気付けない。あとになって知るばかりの無能」


「……」


「あの子は女に体を売り、盗み、襲った」


「そんなことするような子じゃない!!」


「いつまで子供扱いしてるんだよ。もう立派な大人だよ」


 知ったような口を。


「ユーナはなんで首都に行ったの」


「商売さ」


「商売?」


「いま、街じゃ大変なことになっているんだろう? 例の薬のせいで」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんなわけない。

 そんなわけがない。


 街で流行している違法薬物。誰が流しているのか不明であったが、それがユーナだと?


 そんなわけがない!!


「アオコ殿」


「ど、どうでした」


 女性を尋問してから二日後、私はベキリアの警備兵に調査を依頼していた。

 あの違法薬物の原料は、ガラムの民族が住まう地域で採取される。つまり、ガラム人から草を買い、薬物に変えているものがいるはずなのだ。


「あの女性の証言通り、ガラム人と薬草の取引をしていたベキリア人の業者がいました」


「それって」


「薬物の原料です。薬はここで製造され、カローに売られていると見て間違いがないでしょう」


 ここで薬が製造されていた。

 じゃあ、まさか、本当に……。


「くそっ、誰か馬を!!」


 急げ。

 ユーナはいる。

 カローの首都にいる。


 どうして気付けなかったんだ。


 なんでもいい、一秒でもいいから速く!!


「あれ……」


 前から何かが走ってくる。

 大きな、黒い犬。

 間違いない。軍人時代の伝令係、犬に変身できるスキルを持ったウィンニスさんだ。


「ウィンニスさん?」


 馬の速度を落とすと、それに合わせて彼も人間の姿に戻った。


「アオコ殿!! 大変です!!」


「な、なにか?」


「リューナ様が倒れました!!」

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