第33回 ドエロ浮気性クズ

「離せ!! 離せ犯罪者共!!」


 日が完全に沈んだ頃、悪辣な元老院数名はシーナの手に落ちた。


「吐け、ポルシウスはどこだ」


 シーナが縄で縛られた元老院たちに問う。

 彼だけはまだ見つかっていない。


「こんなことをしてただ済むと思うなよ!!」


「そうだ!! 同盟国ウィッカは我々の味方だ。お前など塵も残らん!!」


「いますぐ縄を解け。無礼であろう!!」


 その同盟国様はお前たちを見限っているんだよ。


 シーナは腕を組みながら、じーっと彼らを見つめた。

 なにを考えているのだろう。


「もう二度と会うことはないだろうし、一応謝っておく。お前たちの娘さんやお孫さんの性癖を歪ませてしまってすまない。ちょっと特殊なプレイが好きでね。おかげで嫁探しに苦労しただろう。……ま、どうでもいいか」


 おいおい。


「さて、もう一度聞く。ポルシウスはどこだ。どこへ逃げた。答えれば命だけは見逃してやる」


 どうせ嘘だろう。

 それでも唯一残された望みに託す他なく、彼らは顔を合わせると、渋々口を開いた。


「部下が見た情報によれば。おそらく、湖の国の方角へ」


 しぶとい男だ。

 いいさ、とことん追い詰めてやる。

 湖の国を味方につけようが、必ず。


「そうか。よし、こいつらを本国へ送れ。どう処分するかは、すでにアンリに伝えてある」


「ちょっとシーナさん、それだけですか? こいつらにもっとこう」


「なにを言っているんだアオコ? 奇跡的に生まれがよかっただけのデクの坊に、どうして貴重な時間を割かなくてはならない」


「え、それは……」


「そうだな、では最後に一つ。……みんな、とりあえず彼らに拍手」


 困惑しながら、兵たちは命令に従い手を叩く。

 その異様な状況に、元老院たちは肩を振るわせながらシーナを睨んだ。

 そうか。この人、プライドだけは一丁前な男の辱め方を知っている。


 相手にもしないこと。路地裏で息絶えようとしているネズミを目撃したかのように、気にも留めないこと。

 そして、雑に構ってやること。


 元老院からしたら、せめて記憶や記録に残りたい。俺たちはここまでお前を苦しめたんだぞと知らしめたいのだ。


 それをあしらう。取るに足らない虫ケラのように扱ってやる。

 これ以上ない屈辱と敗北感、そして後悔と怒りが胸中を支配していることだろう。


「よし、連れて行け」


 元老院たちが連行されていく。

 やめろやめろと抵抗するも、無意味だ。彼らの命も肉体も、もはやシーナのさじ加減ひとつ。

 嘆け、何度も私たちや国民を苦しめてきたカス共。

 どうせならその死に様をこの目で見てやりたかった。

 こいつらだけじゃない。その家族も、友も、みんなーー。


「……」


「どうしたアオコ」


「いえ」


 私、いま何を……。

 あぁくそ。人の死に触れすぎておかしくなっている。

 あいつらは牢獄で反省させながら一生を終えさせればいいんだ。

 それだけでいい。


「ポルシウスに追いつけますかね」


「無理だろうな。やつの里帰りは阻めまい」


「え、ヤバくないですか?」


「うーん、実はそうでもない、かも」


「かも? なにか勝算があるんですか?」


「私の浮気相手、覚えているか?」


 ……どれだよ。


「アオコがスローの力でルルルンと鉢合わせるのを防いでくれた」


「あ、キリアイリラ」


 褐色の肌をした美人さん。

 よく覚えている。まだルルルンさんのお腹にナーサちゃんがいた頃だ。


「……あれ? 確かあの人、湖の国の貴族」


「彼女はポルシウスの従兄弟なのだ」


 じゃあヤバいじゃん。


「が、ポルシウスを追い出したのも彼女だ」


「んん?」


「いまは、王なんだ」


「そうなんですか!?」


「そして、今でも私との関係は続いている」


「シーナさん……」


「ふふ、ドエロ浮気性クズで良かっただろう?」


 あぁ、きっともう時期会えるよ、みんな。

 リューナちゃん、ユーナちゃん、ルルルンさん、ナーサちゃん、コロロちゃん。


 ライナ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 湖の国へ向かう道中、アンリから手紙が届いた。

 元老院たちについてだ。


 都市に輸送後、彼らは市中引き回しにされたあと、全裸で街中に縛られたまま放置された。

 自分たちがこれまで散々搾取し、ついには裏切った民たちに痛めつけられたあと、斬首刑に処されたらしい。


 あとはポルシウスのみ。


 待っていろ、お前も生まれてきたことを後悔させてやる。

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