第31回 ポルシウスの罠

 伝令係さんの調査の結果、やはりポルシウスたちはムコ峠を越えようとしていた。

 私たちは進路を変え、回り込めるように急いだ。


 月が天辺まで昇った頃、


「休息を取ろう」


 ようやく、川辺で眠ることになった。

 といっても朝日が地平線から顔を出す前には出発するだろうが。


 みんなが寝静まるなか、私はなかなか寝付けなかった。

 カローのことが心配で、落ち着いていられないのだ。


 隣で熟睡しているノレミュの寝顔を眺めたあと、テントを出る。

 なんとなく、見張り係に無理言ってシーナのテントにこっそり入った。


「どうした」


 ランプを点けて手紙を読んでいた。

 なんだ。寝ているところを驚かしてやろうと思ったのに。


「別に。落ち着かなくて」


「カローが心配だろう。私だってそうだ」


「なんの手紙なんですか? それ」


「ん? あぁ、ちょっとな」


「怪しいですね。新しい浮気相手ですか」


「ち、違う!! 私は心を改めたのだ。私が愛するのはルルルンただ一人。他の女など、ふん!! 微塵も興味がないわ」


 なんとなーく、上着を脱いでみる。


「え!? アオコ、いいのか!? そ、そうか。アオコだって寂しい夜があるものな。わかった、どんとこい!! ひひ、いやー、ついにアオコと……ははー」


「いいわけないでしょドエロ浮気性クズ」


「うっ……。言うようになったな、アオコ」


 てか私のことすらそういう目で見てんのかよ。


「いまのペースで間に合うんですか?」


「あぁ。あちらは平和ボケしているのか鍛錬が足りないのか知らないが、足が遅いからな」


「……ポルシウス、仕留められますかね。変なスキル持ってますけど」


 一度しか使用したところを見ていないが、十中八九、相手の肉体を操るスキル。

 シーナには効かないだろうが、私なら食らってしまうだろう。

 私と同じで、発動すれば勝ちが確定する強力な能力。どちらが先に使えるか、ギリギリの戦いになるかもしれない。


「私は、スローと時間飛ばしの二つの力があります。……もしかしたら、ポルシウスもいくつか能力があるかもしれません」


「気にしてもしょうがない。とうぜん情報は集めてはいるが」


「そういえば、どうして時間飛ばしのオムニス・ネゴはシーナさんにも効くんでしょう。認識できていないんですよね? 無くなった時間」


「うーむ。たぶん、時間が無くなったからじゃないか?」


「?」


「カエルムは、時間が遅くなっただけ。しかしオムニス・ネゴは、時間そのものが消滅する。存在しなくなるのだ。存在しないものは、私でも認識することはできない」


「ほえ〜」


「本当に、すごいスキルを持っているよアオコは。世界全体に影響を与えてしまう。さすが救世主様だな」


 私自身、私のスキルはチートだと自覚している。

 ただ、一つだけ疑問があるのだ。

 これだけ優れた能力なのに、代償がないこと。


 クロロスルは、回復する人の数などによってスキル発動後、肉体が苦しむデメリットがある。

 なら私は? いまのところ、なんの代償も感じたことはない。


「アオコ、一回のスキル発動でだいたい何秒時間を遅くできる」


「いまは、体感時間で一五秒くらいですかね。次にスキルを使うまで、一呼吸はいります」


「そうか……。うん、まあいいか」


「なんです?」


「なんでもない。さ、もう寝ろアオコ。明日も早い。……そ、それともまさか本当に私と?」


「なわけないでしょドエロ浮気性クズ」


「ひえ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数日後。

 濃霧が立ち込める国境付近の丘。

 シーナの指示通り陣を敷いていると、私たちの存在に青ざめた元老院の兵士たちが、姿を現した。


 待ち伏せは、見事成功したようだ。


 見知った顔もある。そりゃそうだ。同じカロー人なのだから。 

 これから行われるのは、権力闘争によって引き起こされる内戦。


 隠れていないで出てこいよポルシウス。

 それと下劣な元老院共。


 カローの平和を望みながら亡くなったライナとトキュウスさんを思い浮かべながら、私は剣を抜いた。


 そのとき、


「愚かですねえ、シーナ!!」


 遠くからポルシウスの声が聞こえたような気がした。

 と同時に、濃霧が晴れていく。

 私たちを囲むように、見知らぬ兵団がこちらに向けて進軍していた。


 シーナが唇を噛む。


「ウィッカ兵の鎧。それに、他の国の兵もいるな」


 逆に待ち伏せされていた!?


「え、わ、私たちの行動を」


「逆に先読みされて、集めていたようだ。ウィッカ及び、同盟国の兵士を」


 見なくても伝わる。ポルシウスが浮かべる笑み。

 思い通りにことが運んで狂喜乱舞している姿。

 出し抜いたつもりか。


「ポルシウスウウウウウウウ!!!!」

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