第24回 大詰め②
数ヶ月以上をひたすら石と木材集めに費やし、そこからさらに何ヶ月も何ヶ月も重ねてベキリアの街の周囲に壁を作った。
街から約一キロメートル程度の距離に、取り囲むように建設したのだ。
高さは約六メートル。
加えて、深い掘りやいくつかの落とし穴まで用意した。
一番近いカロー領地の街からも人手を借りての大工事。
これで、外から街に入ることはできないし、街から出ることも困難となる。
敵側にはこちらの動きを把握できるスキル持ちがいるはずなのだが、些細な妨害をしてくる程度で、大した邪魔にはならなかった。
些細な妨害というのは、クロロスルを攫った謎のスキル持ちが襲ってきたことである。
移動系なのか透明になる能力なのか、まだ不明。
「シーナさん、なんで大軍で邪魔されないってわかったんですか? 居場所がわかっているなら、一気に攻めれば……」
「敵が邪魔しにきたら、我々は逃げるからだ」
「はあ?」
「この壁作りの目的は、相手の体力を奪うこと。いいんだ、兵を動かし、壁を破壊するならそれで。こちらは逃げて、また作る。何度も何度も何度も何度も」
「あの、意味がわからないです」
「次第に、位置把握のスキルの効果範囲がわかるようになる。そして敵は動いたぶん、腹が減って大事な食料をより消費せざるを得なくなる」
徐々に、こちらが勇利になる。
向こうが食糧不足に頭を悩ませているのは知っている。口減らしのために、身分の低い人間を追放しているから。
「なるほど……」
そして、ここから根気の勝負が始まる。
敵の兵糧はどれだけ持つのだろう。
こちらとて、いずれ食べ物は底を尽きる。
敵の援軍は、いつ到着してしまうのだろう。
シーナは、
「ねえアンリ」
「なんだ」
「向こうも限界が近づいているんだし、そろそろ攻めても良いと思うんだ。援軍来られたら、厄介だし」
「そんなこと、シーナ様だってわかっている。待つんだ、あの人の指示を」
本当に勝てるのだろうか。
そんな不安を抱えながら、二週間が経過した。
「よし、いまの壁の周りに、もう一回り壁を作るぞ」
こちらはまだ余裕があると見せつけるように、私たちはまた壁作りを開始した。
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カローを出て、既に三年以上が経過している。
リューナちゃんは元気だろうか。
ユーナやコロロ、ルルルンさんにナーサは?
早くみんなに会いたい。
ライナがいたあの家に戻りたい。
のびのびと植物を育てていたあの日々に……。
「シーナさま〜」
伝令係が慌てて走ってきた。
「北東方面から、騎兵隊が!!」
ガラム人だ。
「来たか」
まずい、ついにガラム人が重い腰を上げて加勢したんだ。
「シーナさん!!」
「決着をつける時が来た」
「ほ、本当に勝てるんですか?」
「勝てる。こちらにはアオコ、お前という救世主がいるのだから」
救世主、久々に耳にしたその単語に、私は胸を締め付けられた。
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二つの壁には弱点があった。
地形の関係上、粗末な櫓しか建築できなかった箇所があるのだ。
最後の決戦、ベキリア人は確実にここを突く。
問題は、援軍のガラム人もそこを知っているかどうか。
連絡手段はあるはずだ。
訓練された鷹。
そういった類のスキル。
等々。
一応、壁の各所に兵を置いたが、結論から述べれば、
「シーナさんの読み通りだ」
ベキリア、ガラム共々、そこを目指して内外から攻め込んできた。
両軍合計、およそ六〇〇〇人。
対して、アンリ率いる八〇〇〇人大軍が応戦する。
厄介な魔獣使いが死んだとはいえ、挟み撃ちにされて守り切れるか不安であった。
私とシーナは、遙か遠方の丘から、戦の様子を伺っていた。
わずか十数名の兵士を連れて。
風が吹き、シーナが纏う紅いマントが翻る。
「いつまで、ここで待機するんですか! アンリたちやられちゃいますよ!!」
「大丈夫、我が軍はそう簡単にやられはしない」
「でも!!」
「まだだ!! もう少し待て」
もう後には引けないと、ベキリア人たちは死に物狂いで突っ込んでいく。
これ以上待って意味があるのか。向こうには、まだスキル持ちがいる。
突然部隊を出現させたり、クロロスルを攫ったりした、能力不明の敵。
いったい誰がそのスキル持ちなのか、特定すらできていない。
「シーナさん、恐れているんですか? 今度は自分が敵の手に落ちるんじゃないかって」
「いや、全然。お前が危惧しているスキル持ち。そうビクビクするほどでもないだろう」
「え?」
「透明化か、瞬間移動か。もし透明なら私には通用しない。……以前、アオコが召喚される前、変身スキルを用いて私を暗殺しようとした者がいたが、私の目には真実の姿しか映らなかった。つまり」
透明になっても、スキル無効のシーナには見えているわけか。
「じゃあ、瞬間移動なら?」
「厄介ではあるな。ずっと触っていないと無効化はできないだろう。背後にいきなり現れたら、殺される。だからこそ、お前を信じているのだ」
「……」
「まぁ、仮に瞬間移動だったとしても、これまでの戦闘からして移動範囲は決まっているようだし、ここなら安全だろう。そう気を張るな」
強風が砂嵐を巻き起こす。
簡素な櫓や壁が完全に壊されそうになったとき、
「行くぞアオコ!!」
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