第13回 二年後(後編)・シーナの娘

「ルルルンさん、こんにちわ」


 シーナさん宅を訪れると、妻のルルルンさんが日光差し込む部屋で赤ん坊をあやしていた。

 二人の特徴を受け継いだ顔の女の子。ナーサちゃんだ。

 ライナが亡くなった年に生まれたので、今年で二歳になる。


「あらこんにちわ」


 ルルルンさんの腕の中で眠っているナーサちゃんにも挨拶する。

 本当に、可愛い赤ちゃんだ。

 きっと将来はものすんごい美人さんになるに違いない。 


 でも、だからこそ不安なんだよね。

 だってシーナさんの血が流れているんだよ? カローの風紀を乱しかねない!! えっちな意味で!!


 ちなみに、女同士でどうやって子作りするかだが、なんでも、互いにまじないを唱えて眠ればいいらしい。


 本当かよって感じだが、本当なんだからしょうがない。

 不思議だね。


 ナーサちゃんを眺めていると、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。


「おはようございます、シーナさん」


「お、来たなアオコ」


「こんな時間に起きてるなんて珍しいですね。せっかく起こしに来たのに」


 彼女とはこれから議事堂に行くことになっている。


「もうナーサが可愛くて可愛くて♡ おちおち寝てもいられないのだ♡」


「親バカですね」


「んふふ〜、羨ましいだろ〜。よし!! 次の子が生まれたらアオコ、お前を乳母に任命する!!」


「え!? 二人目?」


 シーナさんがルルルンさんの肩を撫でた。

 いやらしく。セクハラ親父のように。


「作る予定だよな〜? ルルルン♡」


「はいはい」


 なんて、まんざらでもなさそうな表情。

 ユーナちゃんやコロロちゃんとは違った意味で、ラブラブだね〜。大人な関係って感じ。

 大人として、あんなことやこんなことをしているんだと思うと、こっちが恥ずかしくなってくる。


「あれ? そういえば……」


 ふと、シーナさんに耳打ちする。ルルルンさんに聞かれないように、めっちゃ小声で。


「あの浮気相手とはどうなったんですか? たしか、キリアイリラ」


「……あの子とは、たまに」


 たまに会ってるのかよ。

 このクズ執政官。子供が生まれたんだから流石にやめなよ。

 あー、母さんの浮気を思い出して気分が悪くなる。


 ルルルンさんが口を開いた。


「なんの話をしてるの?」


「い、いや別に」


「まさか、女の話かしら? あなた、目を離すとすぐいろんな子にちょっかい出すものね」


 あ、目を細めた。

 割とガチで怒ってる顔だ。

 気づいてるんだろうなー、浮気してること。


「私のフェイバリットはルルルンのみだ!!」


「フェイバリットじゃない子もいるってことね」


「そ、そんなこと言わないでくれよルルルン!! あ、そうだ!! 面白い話をしてやろう。昨日闘技場に顔を出してみたらな、二匹のうさぎが戦っていたんだ。ありえないだろ? 人材不足なんだなー闘技場も。ははー、大変だなー」


「……私も面白い話をしてあげる」


「?」


「あなたと関係を持った商人の娘、いるでしょ」


「え?」


 キリアイリラは他国の貴族、つまり彼女以外の女か。


「その女の家、潰したから」


「は?」


「潰したから」


「……」


 うーわ。


「な、な、なんてことをするんだ!! 私は執政官だぞ!! ちょっと遊ぶくらい……」


「私は執政官の妻です。私に黙ってあなたと肌を重ねるということは、私をバカにしたことと同義!!」


 そんな大声出してると、ナーサちゃん起きちゃいますよ。


「一人しか制裁していない私の懐の深さに感謝してほしいわね」


 いま現在、シーナさんと関係を持っている女は何人いるのだろう。


「再建の費用は出しました。あとは、あなたの誠意次第ですべて許しましょう」


「誠意?」


「昼食のピザ、買ってきなさい」


「え、私これから議事堂にーー」


「買ってきなさい」


「……はい」


 それで許しちゃうなんて、寛容すぎませんか?

 市中引き回しぐらいしてもいい気がしますけど。


 シーナさんが慌てて家を飛び出す。

 現在カローでシーナさんをここまで従わせることができるのは、おそらくルルルンさんだけだろう。


 ナーサちゃんには是非、ルルルンさんの血が強く反映されていることを願う。


 それにしても、はぁ……。ライナの最後のお願いがあるからシーナさんを支えているけど、正直クズすぎてしんどい。

 まあ、これも平和の証ってやつなのかな。

 うーん、平和になる前から浮気しまくってたか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数時間後。

 議会の場で、元老院たちがシーナさんに告げた。


「シーナ、お前には執政官降りて、カローから立ち去ってもらう」

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