第11回 真相

「誰か!! 誰か来て!!」


 心臓マッサージも人工呼吸も試してみたけど、一向に息を吹き返さない。

 そうだ、私のスキル。時間が操れるなら、時間だって戻せるはず。

 スローしか使えないけど、お願い!! いまこそ、いまこそ進化して!!


「どうした」


 シーナさんがお手伝いさんと共に駆けつけてきた。


「ラ、ライナが……」


 じっと、ライナの顔を見つめる。

 すると、シーナさんは、唇を噛み締め、ライナの頬に触れた。


「よく、頑張ったな」


「なに言ってるんですか!! 病院に行きましょう!!」


「いい、このままで。休ませてやろう。よく耐えた」


 シーナさんはお手伝いさんにトキュウスさんとリューナちゃんを連れてくるように頼んだ。

 この人、どんだけ冷酷なんだ。ライナを見殺しにするつもりなのか!!


「シーナさん!!」


「少し、外で話そう」


「そんなことしている場合じゃ!!」


「いいから来い!!」


「……」


「すべて話してやる、ライナの秘密を」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 トキュウスさんとリューナちゃんが泣く声が聞こえる。

 家の庭で二人の嗚咽を耳にしながら、シーナさんの言葉を待った。


「単刀直入に言ってやる。ライナの死は、決まっていたんだ」


「は? びょ、病気だったんですか?」


「お前が召喚されたあの日、ライナの運命は決定した」


「どういう……」


「異界からの召喚には、代償が必要なのだ」


 それは、己の命。

 もちろん、シーナさんは反対した。いくら魔獣軍団に追い詰められていたとはいえ、愛する妹の命を犠牲するわけにはいかないから。


 しかし、ライナは発動した。

 姉を、父を、兵たちを守るため。

 救世主たる私にすべてを託して。


「お前を召喚してしまった以上、私にできることはライナを褒めてやることくらいだった。よくやった。ありがとう。ライナは凄い、と。そうでないと、あまりにもあの子が可哀想だ」


「……」


「伝承では保って一週間だったのに、本当によく耐えたてくれた。あの子は」


 シーナさんの頬に涙が伝う。

 堪えていた堤防が決壊したように、ポロポロと泣きだす。


「私が、もっとしっかりしていれば、ライナは……」


「そんな……」


 ちょっと待ってくれ。じゃあ、私が召喚されたから、ライナは亡くなったの?

 私が、ライナを殺したっていうの?


 ライナのおかげで、私は死なずに済んだ。異世界で第二の人生を送ることができた。

 けど反対に、私を召喚したから、ライナは……。


「はぁ……はぁ……」


 全身が寒い。

 なのに息が荒くなる。


「しばらく、お前の力を借りることはない。ゆっくり、心を休めてくれ。ライナもそれを望んでいる」


 ライナが残した最後の言葉を思い出す。

 カローの平和のため、姉上様をお願いします。

 無理だ。私には無理だよライナ。

 ライナがいてくれないと、なにもできないよ。


 どれだけ試してみても、時間が巻き戻ることはなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ライナの葬儀は親族のみで行われた。

 私も参加できたことは嬉しかったが、ユーナちゃんはいなかった。


 奉公に出されている以上、家に帰ることは許されない、らしい。

 本当に可哀想だ。


 葬儀が終わったあと、私は庭に野菜の苗を植えた。

 この世界にある、ナスっぽい見た目の野菜だ。


 ミニトマトは、もう少し土いじりが上手くなってからにしたい。


 はじめてにしては立派に育てることができて、みんなから好評だったのだが、野菜嫌いのシーナさんだけは食べてくれなかった。


 それからさらに月日が流れた。

 ライナの死から、もうすぐ二年が経つ。

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