北の森の住民4
やけ酒でも飲めればいいんだがな!
ファンダムにも酒はあるが低品質で一度強かに飲めば悪酔いどころか人体に多大な影響を及ぼす可能性があるため俺は飲まないようにしていた。ガブガブ鯨飲し余りある身体能力を発揮しているムシュリタなどがいるから適量であればたちどころに内臓が悪化するといったような症状は出ないだろうがわざわざ危険を冒す必要もない。それに、酔っても何も解決しないのだ。現実から目を逸らすよりは山積みになっている課題に着手した方が建設的である。
……ハルマの連中でも見に行くか。
何一つ解決策はなかったが現場視察でもしようと思い、連中が様子を見ているという岩場が視認できる場所まで歩く。雨期のため土は泥となり非常に歩きづらいうえ視界もぼやけている。こんな中で本当に監視などしているのかと半分疑っていたが、到着すると確かに連中は例の岩場でこちらをじっと見ていた。
本当にいやがる……
視界不良のせいで明確に捉えられたわけではないが、奴らはどうどうと岩場に立っていた。長身で痩躯だが無駄のない筋肉を持ち、ハルマ特有の衣裳を纏った人間が三人。見張り役の男が言う通り、その姿は実際不気味である。直接的な危害はまだ出ていないとはいえ、隙を見せれば襲ってくるかもしれないから気が抜けない。注意しているだけでも疲労が蓄積するだろう。
「おぉムシク。見に来てくれたのか」
俺がハルマの方を見ていると、先程話をしに来た例の見張り役の男がこちらに近付いてきた。
「あぁ。どんなものかと思ってね。しかし、こうして確認してみると、お前の言う通りだな。さすがに怖いよあれは」
「そうだろう。この道は川まで続いているから女子供がよく使うんだよ。だから余計にな」
「なるほど……ちなみにさっき女連中から聞いたんだが、あいつら、ずっとあの岩場の辺りからこっちを見ているんだって?」
「そうそう。いつもあそこにいるんだ。人と数はまちまちだけど、いない日はないよ」
「毎日複数人でいるのか?」
「あぁ。少なくとも三人。多い日は六人くらいいたな」
「ふぅん。直近七日間で何人いてどいつがいたのか覚えてるか?」
「そんなもの知らないよ。ただ、三人以上の時には必ずやってくる奴がいるな」
「今、あそこに立っている中にそいつはいるか?」
「どうだろう……うん、いないんじゃないかな。雨でよく見えないけど、あいつがいない事は分かる」
「視界が悪くてもそいつが来れば認識できるのか?」
「多分ね。なんか服とか違うし」
「どんな風に?」
「金色の服を着ていて長い槍とか持っているんだ。ゴテゴテしてるから一目で分かるよ」
「……」
「どうした?」
「あ、いや、分かった。ありがとう。参考になったよ」
「ならよかったよ。早く何とかする手段考えてくれよムシク。お前が何とかしてくれなくちゃどうにもならないんだからな」
「……あぁ、分かった」
またもや俺を頼る言葉に内心嫌気がしていたがそれよりも一目見て分かる人間というのが気になった。一際絢爛な装束に長い槍。間違いなく権威を持っている人物である。そんな奴がわざわざ定期的に訪れるというのはただ事ではない。この監視はハルマ一丸となって実行していると思ってまず間違いないだろう。しかしそれは何のために? 疑問が更に加速する。考えても仕方がないが考えなければならない。
この時代に論理的な根拠があるとは考えづらい。となれば、権力者や有力者の指示である可能性がある。あの岩場がボーダーラインなのか、それとも監視するのに都合がいいだけなのかは定かじゃないが近付かない方がいいのは明白だ。道路の拡張は予定よりも短くしよう。後は、奴らが攻めてきた時の事を考えて外壁と門でも造るか。それならば女子供が怯える事もなくなるだろうし見張りも楽になる。万が一の際も防衛戦が展開できるからこちらが優位に戦える。ついでに堀も掘るか……川から水を引っ張ってきて……駄目だ、地盤が悪いし氾濫したら終わりだ。あぁ地盤が駄目なら外壁も難しいか……いや、砂利を地面に埋め込んで固めていけば……おいおい何年かける気だ……いかん、思考がずれた。ともかく、ハルマの中の偉い奴が視察に来ている以上迂闊な真似はしない方がいい。先制攻撃など以ての外だ、やるならやはり話し合い……外交しかない。
結論としては話し合いしか選択肢はないように思えたが、その場をどうやってセッティングするかである。「やぁやぁこんにちは」と無暗に近づくわけにもいかないし、そもそも言語が共通かも分からない。まずは情報が必要だった。
というより、なぜもっと早くその事に気付かなかったのだろうか俺は。まずは相手を知る事が先決だろうに。
至極真っ当な批判を自己に投げかけるも、すぐに“疲れていたから仕方がないか”と切り替える。振り返っている暇はなく、行動しないわけにもいかない。ともかく俺は村中を駆け回り、村以外の集落にも足を延ばしてハルマの情報を集めて回った。病み上がりには非常にハードな作業である。
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