第10話 パメラと留守番

 朝食の後、ロジェは冒険者ギルドに、リーズは学校に出かけていった。


 僕はパメラとお留守番だけれど、狐の僕にはパメラの手伝いは出来ない。


 人型になっても赤ん坊の姿じゃ、やっぱり何も出来ないしね。


「パメラ、ごめんね。僕何の役にも立たないよね」 


 朝食の後片付けをしているパメラの側に行って申し訳なさそうに声をかけると、パメラはにっこりと笑いかけてくれた。


「そんな事はないわ。こうして話しかけてくれるだけでも嬉しいわ。リーズが学校に行くようになって家で一人でいるのが寂しかったの。シリルが来てから少しは寂しさが紛れたけどね」


 僕に気を使ってくれているのかはわからないけど、パメラの言葉は少し僕の気持ちを楽にしてくれた。


「…ねぇ、シリル。お願いがあるんだけど、いいかしら?」


 洗い物を終えたパメラが遠慮がちに話しかけてきた。


 ん? 何だろう?


「なぁに? 僕に出来る事なら何でもするよ?」


 そう言うとパメラは躊躇いがちに口を開いた。


「時々でいいから赤ちゃんのシリルを抱っこしたいんだけど、いいかしら?」


 え? 赤ん坊の姿になるの?


 パメラの意図がわからなくて首を傾げると、パメラはこんな話をしてきた。


「リーズの後に子供を授かったんだけど、残念ながら流産しちゃって、それからずっと子供が出来ないの。だからシリルみたいな赤ちゃんを見ると抱っこしたくて仕方がないのよ。お願い出来ないかな?」


 どうしてこの家にはリーズしか子供がいないのかと思ったが、そういうわけだったのか。


 そんな話を聞いたら断ることなんて出来ないよ。


 それくらいでいいのならば、僕はいくらでも赤ん坊の姿になってあげたい。


「そのくらい、お安い御用だよ」 


 その場で赤ん坊の姿になり、抱っこして、とばかりに両手を伸ばすとパメラは嬉しそうに僕を抱き上げた。


「髪は白? いえ銀髪かしらね。狐の時の毛の色と一緒なのね。だけど獣人には獣の耳と尻尾があるって聞いてたけど違うのかしら?」


 パメラはしばらく僕を抱っこしたいたが、やがて何かに気付いたように僕に言った。


「ありがとう。シリルはいい子ね。だけどこの姿を近所の人に見られないようにしないといけないわね。もう戻ってもいいわよ」


 僕は狐の姿に戻るとスルリと床の上に降り立った。


 確かに赤ん坊のいないはずの家にいきなり赤ん坊が現れたら説明に困るよね。


 それに赤ん坊の姿になると喋れなくなるから、もどかしくはあるけどね。


 パメラと一緒に過ごしていると、やがて学校からリーズが帰ってきた。


「ただいま、母さん、シリル」


 リーズは帰るなり僕を抱き上げて頬擦りをしてくる。


 抗議のため尻尾でペシペシと叩いてみるが、大して効果はないようだ。


「リーズったら、シリルが嫌がっているでしょ」


 パメラが呆れたようにリーズを注意するが、リーズは構わずに僕を抱っこしたままだ。


「だって、ちっちゃくて可愛いんだもん。大きくなれるように魔法の練習をするんでしょう? 今のうちに小さいシリルを堪能しておかないとね」


 リーズの言い分もわからなくはないけど、だからってギュウギュウに抱きしめるのは勘弁してほしい。


 ようやく僕を開放してくれたリーズは、今日学校で習ったことを僕に教えてくれるが、流石に家の中で使えるような魔法ではなかった。


「学校では魔法を使っても大丈夫な構造をしてるからね。やっぱり今度父さんに森に連れて行って貰うしかないよね」


 ロジェはまだ冒険者ギルドから帰ってこない。


 僕のいた国に関しての情報収集をしてくると言っていたが、偶に緊急の討伐依頼が入ってくるらしいので、もしかしたらそちらに狩り出されたのかもしれない。


 夕方遅くになってようやくロジェが帰宅した。


「遅くなってすまない。街道近くにゴブリンが現れたという情報が入ってね。大した数じゃなかったが、念を入れて見回りをしていたんだ」


 ゴブリンかぁ。


 父さん達もよく退治に行っていたな。


 食べるところが無くて、素材も魔石を取るくらいしか無くて、その魔石もかなり小さめの物しか取れなかったっけ。


 大して強くは無いけれど、群れで行動するから、討伐もそれなりに強さを求められるそうだ。


 ロジェが帰ってきたので、ようやく夕食にありつける事になった。


 夕食を終えてロジェがおもむろに切り出した。


「今日、冒険者ギルドに行ったんだが、残念ながら最近カヴェニャック王国に行った奴はいなかった。引き続き情報を集めてみるから待っていてくれるか?」


 僕だって今日すぐに情報が得られるとは思っていない。


「ロジェ。心配しなくていいよ。僕の体だってまだまだ成長させないといけないんだから、焦らずに待てるよ」


 ロジェは僕の頭を優しくポフポフと撫でてくれた。

 

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