第9話 告白

 どちらも声を出せずに固まったまま、数秒…。


 僕は意を決して、狐の姿に戻るとリーズ達の隙を付いて逃げようとした。


 しかし!


 流石は現役の冒険者であるロジェには敵わなかった。


 あっと言う間に僕の体はロジェに確保されていた。


「離してよ!」


 ロジェの腕から逃れようとジタバタしてみるが、到底敵う相手ではない。


 ロジェは僕をびっくりしたように見つめた。


「…お前。…まさか獣人か?」


 しまった!


 うっかり喋っちゃった!


 獣人とバレたからには僕は何処かへ売られてしまうんだろう。


 そうなったらもう、父さん達の所へは一生戻れないかもしれない。


「獣人だよ。だけどお願いだから僕を売ったりしないで! 僕は父さん達の所に帰りたいんだよ!」


 ポロポロと涙を流してお願いをすると、ロジェは驚いたように目を見開いた。


「売る? どうしてそんな事をしなくちゃいけないんだ? この国では獣人の売買は禁止されている。中には金儲けの為にそんな事をする連中もいるが、俺はしないぞ」


 ロジェの言葉にリーズも必死になって訴える。


「そうだよ。私の父さんはそんな酷い事はしないよ。だから安心して。狐さんがお家に帰れるようにしてあげるから…」


 パメラも僕を安心させるように優しく頭を撫でてくれる。


「親元を離れて辛かったのね。だけど大丈夫よ。あなたの事は誰にも言わないから安心して」


 パメラの優しい手に僕は更に涙を零した。


 今まで気を張っていたのが一気に溶け出してしまったようだ。


 ロジェから僕を受け取ったパメラは優しく僕をあやしてくれた。


「大丈夫よ。ここにはあなたに危害を加えるものは誰もいないわ。安心しておやすみなさい」


 パメラに優しく撫でられ僕はそのまま深い眠りに陥った。


 ここに来てようやく心の底から安心して眠りについたような気がした。




 翌朝、僕は目覚めるとリーズ達に僕の事をちゃんと報告する事を決めた。


 リーズ一家がそれぞれの席に着くと僕はテーブルの上に乗って皆を見回した。


 こうして改めて話をするのって少し照れるな。


「僕は狐の獣人でシリルって言うんだ。カヴェニャック王国にある獣人の里で両親と兄達と暮らしてた。だけどある日、人間が襲ってきて父さん達は皆と里の入り口へ行ったんだけど、その隙に反対側の結界を破って人間が子供を攫いに来たんだ」


 そこまで話したところで僕は一旦話を止めた。


 久しぶりに喋ったから喉が乾いちゃったよ。


 それに気が付いたパメラが水入れを僕の目の前に置いてくれた。


 少し水を飲んで喉の乾きを潤して再び喋り始める。


「兄さん達に人間が来たことを父さん達に伝えて貰うために、僕は囮になって人間と犬を僕に惹きつけたんだ。その途中で崖から落ちて川に流されてリーズ達に拾われたってわけ…」


 話し終えた僕をロジェとパメラは優しく撫でてくれて、リーズは僕を抱きしめて涙を零した。


「シリル…。大変だったんだね。お父さん達の所に帰りたいよね」


 リーズの手は兄さん達の手を思い出させる。


 兄さん達もよく人型になっては僕を撫でたり抱きしめたりしてくれたっけ。


「だけど、シリル。獣人はもう少し成長が早いと思ったが、お前は生まれてどのくらい経つんだ?」


 やっぱり人間にも僕達の成長速度はわかっているんだな。


「僕は生まれて半年だよ。だけど兄さん達とは成長速度が違うんだ」


 僕はリーズの腕からテーブルに降りると人型になってみせた。


 生後6ヶ月位の人間の赤ん坊の姿に変わった僕をパメラが嬉しそうに抱き上げた。


「やだ、可愛い! 狐の姿も可愛いけど、こっちもそれに負けず劣らず可愛いわ。どうしましょう。シリルを手放したくはないわ」


 すっかりハイテンションになったパメラにロジェもリーズも少し引いているようだ。


 僕も抗議をしようと口を開くが「あー、あー」という声しか出ない。


 仕方がないので狐の姿に戻って身をよじりテーブルの上に戻った。


「兄さん達は既に6歳位の姿なのに、同じ日に生まれた三つ子なのに僕だけ赤ん坊のままなんだ。だから人型になるとまだ喋れないんだよ」


 むくれたような口調の僕に皆は納得したような顔をした。


「だから魔法で僕の体を成長させることが出来ないかと思ってこっそりと魔法の練習をしてたんだ。こうして見つかっちゃったけどね」


 テヘヘ、と笑う僕をリーズがまたもガバっと抱きしめてきた。


「シリル。私、協力するよ。シリルの魔法の練習に私も付き合ってあげる」


 ロジェとパメラも僕を見て優しく頷いた。


「ここはマルモンテル王国でカヴェニャック王国の隣の国だ。獣人の里についての情報がないか、それとなく冒険者仲間に聞いてみるよ」


「私はシリルに美味しい物を作ってあげるわ。今まで薄味にしてたから物足りなかったでしょう? 何が食べたいか遠慮なく言ってね」


 リーズ達の言葉には感謝してもしきれない。


 僕に何が出来るかわからないけれど、リーズ達の負担にならないようにしよう。


 こうして本当の意味でのリーズ達との生活が始まった。

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