第7話 食事
リーズ一家に拾われて数日が過ぎた。
会話の内容から父親はロジェという名で冒険者をしている事、母親はパメラ、リーズは10歳で学校に通っている事がわかった。
ロジェとリーズが行った森の中の川で僕を見つけて拾ってくれたらしい。
特に怪我をした箇所もなく、この部屋の中ならば自由に行き来出来た。
食事は相変わらずミルクとパンだけで変わり映えしない。
これじゃお腹に溜まらないから食べた気にならないよ。
お肉でも焼いて出してくれないかな。
ああ、母さんの料理が恋しいな。
兄さん達は人型になって食事をしていたけど、僕は赤ん坊になってしまうから狐の姿のままでご飯を食べていた。
母さんは狐の姿でも食べやすいようにご飯を作ってくれたっけ。
リーズ達は僕が鳴かないのを不思議がっているが、狐の鳴き声を知らない以上、黙っているしかない。
人間の言葉が喋れる獣人だと知られたらどんな扱いを受けるかわからないからだ。
ロジェが冒険者ならば、なおさら仕事で獣人の捕獲をしたことがあるかもしれない。
そう思うと迂闊にはロジェに近付けない。
隙を見てこの家から逃げ出そうかと思っていたが、ここが何処なのかわからないままなのは危険過ぎる。
ましてや自分の体の大きさを考えたら、迂闊に外を歩けない。
今のところリーズ一家は僕に危害を加えたりはしないようだから、このまま大人しくここで生活するのが一番だろう。
もうちょっと大きくなりたいんだけど、それには食べる物も重要だよね。
だけどどうやって焼いたお肉が食べたいと伝えるかだよね。
部屋の片隅に置かれた僕専用の寝床に伏せて、リーズ達が食事をするのを眺めている。
ああ、美味しそうだなぁ。
僕もあんなお肉が食べたいや。
「くうぅー」と僕のお腹が鳴ったのが聞こえたのか、リーズがこちらを振り返った。
「どうしたの? お腹が空いた? さっきご飯食べたよね?」
確かに先程ミルクとパンを貰ったけど、あれっぽっちじゃお腹いっぱいにならないよ。
抗議の意味を込めて僕はポフン、と尻尾で地面を叩いた。
あれ?
もしかしてこれで伝えられるかも?
リーズも僕の尻尾の動きに気が付いたようだ。
お肉をフォークに突き刺すと、それを僕の方に向けた。
「もしかして、これが食べたいの?」
僕は伏せの状態から体を起こすと、もう一度尻尾で地面をポフンと叩いた。
「母さん。このお肉、この子にあげてもいい?」
リーズは母親に同意を求めたが、そんなのはすっ飛ばしてこっちにお肉をくれないかな?
パメラは流石にそれには難色を示した。
「これを食べさせるの? 狐には味付けが濃すぎないかしら?」
いやいや、獣人なんでその辺は大丈夫です。
そんな事を言えるはずもなく、僕はじっとリーズを見つめてもう一度ポフンと尻尾で地面を叩いた。
「ほんの少しだけあげてみてもいい? それで食べたら狐さん用に味付けが薄いのを作ってみたらどうかな?」
リーズのお願いにパメラは渋々許可を出した。
やった!
お肉が食べられる!
リーズが僕専用のお皿にお肉をのせて僕の目の前に差し出した。
いきなりがっついたら不審がられると思い、ちょっと舌先でお肉を舐めて味の確認をする。
美味い!
久しぶりのパンとミルク以外の味が舌に染みる。
僕は一口でお肉を口の中に入れるとゆっくりとそれを噛み締めた。
美味しーい。
飲み込むのがもったいないけれど、いつまでも噛んでいるわけにはいかないので惜しみつつお肉を飲み込んだ。
もっと欲しい、とばかりにリーズを見つめて尻尾をポフンと動かすと、それだけでリーズには伝わったようだ。
「まだ欲しいって。母さん。他にあげていいお肉はある?」
パメラは仕方がない、とばかりにため息をつくと台所に行き、何やら焼き始めた。
しばらくするとフライパンを持って来ると、その中に入っているお肉を僕の皿に入れてくれた。
焼き上がったばかりのお肉はホカホカと湯気が立ち昇っている。
この姿ではふうふうと息をかけて冷ます事も出来ないので、少し冷めるのを待ってから食べ始めた。
少し味付けが薄いけど、それはまあ我慢するとしよう。
「変わった狐だなぁ。焼いた肉を食べるなんて。もしかして何処かで人間に飼われていたのか?」
ロジェが見当違いの発言をするが、そう思わせていたほうが無難だろう。
僕はお肉を頬張りながらポフンと尻尾を動かす。
「きっとそうだよ。だから私達の言う事もわかるんだよ」
リーズも父親の案にのっかって僕の行動をいいように解釈してくれる。
このまま人間に飼われていた狐を演じて生きていくしかない。
もっと体を大きくして一人でも生活出来るようになって、父さん達の元に帰るんだ。
久しぶりのお肉をお腹いっぱい食べて僕は満足して眠りについた。
父さん、母さん、兄さん達。
待っててね。
きっと家に帰るからね。
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