第5話 川での拾い物

 リーズは素早く朝食を食べ終えると、大急ぎで身支度を整えた。


 今日は待ちに待った、初めて父親に森に連れて行って貰える日だ。


 リーズは今年10歳になり、学校に通う年になった。


 学校で魔法の基礎を教わり、試験に合格出来れば森での狩りの許可が貰える。


 リーズも一通りの攻撃魔法を取得し、ようやく許可が下りたのだ。


 同級生の中にはせっかく許可をもらっても狩りには行かない子もいた。


 最も皆が皆、冒険者を目指しているわけではないので当然といったところではある。


「リーズ。準備は出来たのか?」 


 身支度を終えたところで父親のロジェが声をかけてきた。


 ロジェはこの町でランクAの冒険者をしている。


 時には魔獣の討伐を頼まれて他の町から要請される事もあった。


 そんな父親に憧れてリーズも冒険者を目指している。


 ロジェはリーズに近付くと胸当てや小手をチェックした。


「よし、いいぞ。今日は俺が一緒だからといって気を抜くなよ。足手まといになるとわかった時点で戻るからな」


「わかってるわ、父さん」


 顔を引き締めて返事をするリーズにロジェは満足そうに頷くと、妻のパメラに告げた。


「それじゃ、行ってくる」


「母さん、行ってきます」


 パメラは一度言い出したら聞かないリーズにため息をつきながらも、二人を送り出した。


「リーズ、無理をしないでね。ロジェも危険だと思ったらすぐに引き返してね」


 リーズは母親に苦笑しながらも意気揚々と父親の後をついて行った。


 町の外に出る門のところでリーズは学校から貰った許可証を見せた。


 父親は門番とは顔馴染みなので、一応冒険者証は提示するが、ほぼ顔パスだ。


「ロジェの娘さんかい? 顔はロジェに似なくって良かったな」


 そんな軽口を叩いて門番はロジェとリーズを送り出してくれた。


 隣町に向かう定期馬車に乗り、森の近くで下ろして貰った。


 ここから街道を逸れて森の中に入っで行くのだ。


 どんな魔獣に出会うのかとドキドキしながらリーズはロジェの後をついて行った。


 だが、出会う魔物はスライムや大鼠といった大して魔力を使わなくても倒せる魔物ばかりだった。


 がっかりしながらも更に森の奥に進んで行くとやがて前方に川が見えてきた。


 川辺りには開けた場所があり、腰を下ろせるような切り株もあった。


「よし、この辺で休憩しよう」 


 ロジェに言われて辺りから小枝や枯れ葉を集めてきて、火魔法で焚き火を起こした。


 せっかくだから魚でも釣ろうかな、と川に目をやると、川岸の岩に何かが引っ掛かっているのが見えた。


「父さん。あそこに何かが引っ掛かってる」


 リーズはロジェに声をかけながら、その岩場へと近寄っていった。


 真っ白い布のようなものだと思っていたが、近寄ってみて初めてそれが白い狐だと気が付いた。


「父さん、その子、生きてるの?」


 リーズでは手が届かなかったので、ロジェがその白狐を岩場から引き上げた。


 ずぶ濡れではあるが、どうやらかすかに息をしているようだ。


「いや、生きてるぞ。風魔法で乾かしてヒールをかけてあげてごらん」


 リーズは父親に言われた通りにその白狐に魔法を施してやると、ピクリと尻尾が動いた。


 真っ白で綺麗な毛並みをしているが、随分と小さい子狐だ。


「この子、随分と小さいね」


「そうだな。親とはぐれたか、他の魔獣に襲われて川に落ちたかだな。ここに置いておいたら親が迎えに来るかな?」


「駄目だよ。こんなに小さいのにこんな所に置いていったらまた襲われちゃうよ」


「何だ、リーズ。この子を家に連れて帰るつもりか?」


 リーズは父親の手から子狐を受け取ると胸にギュッと抱きしめた。


「もう少し大きくなるまで家で面倒をみようよ。私がちゃんと世話をするから」 


 リーズの願いにロジェはプッと吹き出した。


「お前が面倒を見るって、昼間は学校でいないだろうが…」


 ロジェに指摘されてリーズはほっぺたを膨らませた。


「それは、そうだけど…。学校から帰ったらちゃんと面倒を見るから。ね、いいでしょ?」


 ロジェはリーズの頭をポンポンと叩いた。


「それは帰ってから母さんに言うんだな。その子がいたんじゃ今日はもうおしまいだな。さっさと帰るぞ」


 リーズは狩りが中途半端で終わったのを少し残念に思いながらも、腕の中にいる可愛い子狐に心を奪われていた。


「私がちゃんと世話をしてあげるからね。お家に帰ろうね」


 リーズは腕の中の子狐を大事そうに抱えながらロジェの後に続いた。


 家についてリーズはそっと腕の中の子狐をパメラに見せた。


「母さん。この子を飼いたいんだけど、いい?」


 パメラはリーズに差し出された白狐に目を丸くした。


「まぁ、何この子。可愛いわね」


 パメラは子狐を抱き上げるとスリスリと頬擦りをした。


「やだ、気持ちいい。ほら、リーズ。ぼうっとしてないでこの子のベッドを用意して」


 パメラに言われて慌ててリーズは子狐の寝床を用意した。


 子狐を飼うことに反対はされなかったが、あの様子では自分よりもパメラの方が夢中になりそうだとリーズは悟った。


 こうしてリーズ達と子狐の生活が始まった。

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