夢沼に堕ちろ
大和滝
弍 追われる
私は足が遅い。だからいつも逃げ遅れるんだ。近所の犬から、鬼ごっこの鬼役からも、
はあ、はぁ……、、助けてっ!、、足が、もう、むり!
うがぁぁぁぁぁあぁぁ!!
…………………………、
………………、
…………っ、
……………………うぅ
「またか」
もう10回目くらいだ。
最初は目がいっぱいある黄色い鬼に追いかけられて、潰された。
次はツノが沢山ついている馬に追いかけられて、貫かれた。
別の日は
そして今日は大きな
追いかけられる夢は定番の悪夢だと思う。だけど、それがすごくリアルなものになると恐怖はない。追いかけてくるものの見た目、逃げている場所や周りの建物の看板。
それらがハッキリと見えて、起きたあとも覚えているような夢をみて感じるのは、
怖がるとかそれ以前に、逃げないといけないという念が追い越してくる。
6月になってから私はこういう夢を何度も見るようになった。精神的な理由なのだろうかと考えたが、何も思い当たる節はない。
そんな目覚めの悪さも最近は慣れてきて、汗でビチャビチャのパジャマから制服に着替えた。
そして身支度を済ませた私は学校へ向かった。
学校に着いて教室に入るとすぐに
「あれ〜今日も生きてたんだぁ。すご〜い」
「ノロマだからいつか車に轢かれて死んじゃうと思って、せっかく私たちが毎日前もって花瓶置いてあげてるってのにさ〜」
「わかる〜。無駄だよねぇ」
「早く死ねよ」
「ねえねえグズ子〜、ジャージ貸してよ」
「いや…私も着たいから…」
「は?どうせ見てるだけなんだからいいだろ。グズ子のくせに逆らわないでくれる?」
「あ…」
彼女は私のバッグからジャージを奪い取って行った。あの子たちもずっと男子たちが運動しているのを見てキャーキャー言ってるだけなのに…。
体育館は梅雨時で少し蒸し暑い。だからと言って私みたいないわゆるインキャは半袖短パンはキツイ。今日はバレーボールのネットが張られている。私はいつも通り影を薄くして隅っこで体育座りしてようコソコソしていた。
しかしそんな私に大声で話しかける人がいた。
クラスで学級委員長を務めて、一番権限のある
「え!グズ子今日めっちゃやる気じゃねえかよ!バレーやろうぜ」
「え、あの…、私は…」
「え、何!?聞こえねーって。早く来いよ!あ、若奈!そいつ連れてきて」
「オッケー」
私のジャージを着た彼女は私の腕をガシッと掴んで、無理やりフィールドに引っ張っていった。
花澤は戸惑う私にボールを押し付けサーブを要求した。
私は後ろに下げられ右腕で下からボールを弾いた。しかしボールはふにゃふにゃと飛んで、ネットのフチに当たって落ちてしまった。
「うっわ、興醒めだわー。ほんとお前って何やってもダメだよな」
体育の授業が終わって私は疲弊しきっていた。あの後私はずっと試合に参加させられていて、やたらと私の場所を狙ってスマッシュを打ってきたりした。私がミスをするたびに酷いことを言われた。
もうキツイ…。
ここは、山かな?空気が薄いし、なんかとても嫌な気分になる。
あたりを見渡すと一面の草っ原の中には拓けた道があった。どうしてか私はそこに入っていってしまった。
進むにつれて正体の不明な嫌な気分が強く込み上げてくる。引き返したいはずなのに、足が勝手に前に進んでしまう。そうかこれは夢なんだ。きっと何かにまた追いかけられる。
道が行き止まったと思い私は後ろを向いた。
しかし何もいない。おかしいなと思いながら私は前を向き直した。するとそこには黒いドロドロとした沼のようなものがあった。
嫌な気分はこれのせいだ。なぜかこれを見ていると嘔吐感がする。身の毛がよだつような嫌悪感が身体中を突き刺す。
「ネぇ」
………っ!!
肩を誰かに触られ、耳元で女の声がした。私はすぐ後ろを見ると、そこには髪の毛の色が抜けた、私くらいの身長と年の女性が立っていた。
幽霊という感じはしなく、とても可愛らしい容姿をしていた。ただ彼女を見ていると私の細胞一つ一つに意志ができたかのように身体が暴れる感覚に襲われた。私は彼女を全身全霊で拒絶している。
私は彼女から逃げなければいけないと思い、駆り立てる焦燥感を感じながらジリジリと後ろに下がった。
次第に足もとが
瞬間、私は落ちた。
目が覚めると、今日も私はびしょ濡れだった。起きてもなお、さっきまで目の前にいた彼女が脳裏には投影されている。
私は急いでトイレに駆けた。
今日はまるで夏のようにカラッと晴れている。
ほんとにイヤになるヨね?
今日も学校は憂鬱だ。花瓶を戻すことから始まる学校生活はもう飽きてキた。
「グズ子は今日も生きている」
「格言ぽく言うなし」
「どうせあと何日か後には使えなくなるって」
「それもそっか」
教室のみんなはどっと笑う。何も面白くないのに。
私は涙を流してイた。
今日も地獄のような学校が始まるんだ。
パシリに使われた。
悪口を吐かれた。
貸したジャージは汚くなって返ってきた。
殴られた。
6時間目には私は疲れきっていた。心が潰れそうなほど痛い。私はこんなことのために生きているの?死にたいの?なんで?コイツらのせい?死ねと言われて死なないといけないの?なんで?イヤだ!このままじゃ…、私はきっと殺される。
嫌…いや、イや!
心地よい…。なんだろここ、真っ暗闇を沈んでいる。あ、今朝の沼かな。じゃあまだ今は夢なんだ。
先ほどまでの気分の悪さが嘘かのように今の私は浄化されきっていた。
このまま終わればいいのに。死なないで、生きて…。…。。
すると突然あたりの暗闇が白く輝き出した。あまりの眩しさに目をずっと瞑ってしまった。
目が慣れてきて目を開けるとそこには知っているものがこちらを睨んでいた。
目がいっぱいある黄色い鬼
ツノが沢山ついた馬には山姥がまたがっている。
そして大きな
そして私は逃げだした。結局逃げるのか。あのまま沈ませてくれればよかったのに。本当に神は私を見捨てたようだ。
自分に対して嘲るように笑った私は、ガシャ髑髏に握りつぶされた。
私からは血は出なかった。黄色い光が漏れるだけだった。
目が覚めると、教室だった。花澤の気持ちの悪い視線が目覚めをさらに悪くする。
「あれーグズ子寝てたんだ〜。じゃあ罰として再来週のクラス対抗リレーのアンカーはグズ子で決定かなぁ。負けたら痛い目見るからな」
「いいねーそれ。痛い目確定じゃーん」
私は逃げないといけないと確信した。
席を立って私は全力で教室のドアを開けて出ていった。そしてそのまま廊下を走って、階段を駆け降りて、上靴のまま学校から逃げた。
息が切れるまで走り続けた私は学校からずいぶん離れたところで止まって振り返った。
すると、さっきまでいた学校からはとんでもない量の黒煙があがっていた。
そうだ。私は逃げレたんダ。愚図は、おまエラだ!私は生きテる!先に死んだのハ、アンたたちだ!
私は、グズ子じゃない!
『ムショウ』
「え?」
私は笑いが止まらなかった。まるで夢をみているかのように楽しかった。そして、
私ハ沼ニ落チタ。
ムショウハモトメル
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