第19話
私が学園に入学してから、二か月が過ぎた。
季節は春から夏に変わっている。私の元の世界では、梅雨のシーズンと言えた。六月に入ったが、雨はあまり降らない。代わりに朝方に濃い霧がよく発生する。そのせいか、ひんやりと涼しくはあるが。私は馬車から降りて姉やセシルと挨拶を交わす。
「おはよう、セイラ」
「おはよう、ルイゼ」
二人でそう言うと、微笑ましげに姉が見ていた。
「本当に仲が良いわね、あなた達は」
「そんな事はないです、姉上」
「あら、照れる事はないじゃない」
コロコロと姉は笑う。そこに、婚約者のロバートが駆けてきた。
「あ、リーゼロッテ。おはよう!」
「おはよう、バート」
「ああ、おはよう。ルイゼちゃんにセイラさんも」
次いでとばかりに、ロバートが私やセシルにも声を掛けてくる。
「はい、おはようございます。ロバート先輩」
「うん、ルイゼちゃん。元気そうで何よりだよ」
「ロバート先輩、相変わらず姉上と仲がよろしいですね」
私が言うと、姉とロバートが固まる。
「……何を言いたいのかな、君は」
「いえ、見たままを言っただけですけど」
「……ルイゼ、先輩に余計な事は言わないの。失礼しますね、ロバート先輩、リーゼロッテ先輩」
「う、うん」
「え、ええ。またね、ルイゼ、セイラさん」
私はそのまま、セシルに引っ張られながらその場を後にした。
グイグイと手を引っ張りながら、セシルは速歩きで校庭を突き進む。私よりちょっとだけ背が高い彼は普段なら、合わせてゆっくりと歩いてくれるのに。今はそんな事を考慮もせずにいる。おかげで小走り気味で私は進むしかない。息が切れ始めているし。
「……セ、セイラ。痛いから、離して!」
「……!」
セシルは私が音を上げたせいか、やっと足を止めてくれた。ゼイゼイと肩を上下させながら、息を整える。
「すみません、私としたことが」
「セイラ?」
「……ルイゼ、遅れるといけないから。教室に行きましょう」
仕方ないので私は頷いた。セシルと一緒に教室に向かった。
教室に着くと、セシルは手を離した。私はちょっと、ジンジンと痛む手を擦る。強い力で握られていたから痺れてもいた。私はセシルに一言ことわってから、自分の席に行く。前にはライカ殿下がいる。
「あ、ルイゼさん。おはよう」
「おはようございます、ライカ殿下」
「今日もセイラさんと一緒に来ていたね」
「……はい」
「仲が良いよね、二人共」
私は小首を傾げた。確かに、私達は仲が良い友人同士に見えるだろう。実際は恋人同士だが。まあ、それを下手に言うわけにはいかない。
「……ルイゼさん、放課後にセイラさんと三人で話したい事がある。いいかな?」
「分かりました、殿下のおっしゃる事なら」
「じゃあ、約束だよ。今日の五の刻に」
「はい」
「後でセイラさんにも言っておくよ」
私は再度、頷いた。ライカ殿下はそれを見て取ると前を向く。担任の先生が入って来たのだった。
ホームルームが終わり、一時限目の授業になる。科目は歴史だ。担当は確か、ウォーレン先生だったか。三十代半ばの男性の先生だ。
「このフローレンス王国は、今から三百年前に建国されました。初代の国王は……」
ウォーレン先生が訥々と説明をする。フローレンス王国は三百年の歴史があり、初代国王はライカ殿下と同じような黄金の髪に淡い水色の瞳の偉丈夫だったらしい。名前は確か、メイキンス陛下といったか。剣術の天才であり、軍師としても優秀だったと伝承にはある。
「メイキンス王は後に、セーレイン家から一人の妃を迎えた。名はルシル・セーレイン。初代王妃だな」
私はルシルと言う名前を聞いて固まる。ルシルといったら、あのセシルの母君と同じ名前だったはず。まさか、ここで出てくるとは。教科書をめくる手が震えた。しばらくは先生の説明も耳に入らなかった。
お昼休みになり、セシルと二人でまた中庭に行く。静かに彼お手製のお弁当を開き、食べる。けど、なかなかに喉を通らない。
「ルイゼ、どうかしましたか?」
「な、なんでもないわ」
「そうですか、なら。冬期休暇になったら、私と一緒に王都の外れの離宮に行きませんか?」
「離宮に?」
「ええ、どうでしょうか」
セシルに問われて、私は少し逡巡した。けど、意を決して答える。
「いいわよ、一緒に行きましょう」
「分かりました、そのように離宮には伝えておきますね」
「ええ」
私は頷いた。まんじりとしない中で食事を進めたのだった。
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