第10話

 私は四時限目の授業が終わり、昼食を済ませに廊下を歩いていた。


 ちなみに一人だが。姉やレウィシア達はまだ来ていない。テクテク歩いていたら、食堂にたどり着く。入口付近でトレーを取り、お皿などを載せる。

 学園の食堂自体は元の世界でいうヴュッフェ式で各自で好きな物を取れるようになっていた。私はパンやスープ、おかず類を二種類程お皿などに盛りつける。スプーンやフォーク、ナイフも載せてから、席についた。トレーを机に載せると簡単に祈りを捧げて食事を始める。パンはいわゆる白パンのロールでスープはミネストローネだ。浸しながら食べると、あっさり系だった。おかずも白身魚のムニエルと野菜のサラダでこちらも食べやすい。

 私は気がついたら、二十分と経たない内に完食していた。ま、いっか。食べ物を美味しいと思えるのは健康な証拠よ。そう思いながら、カトラリーを置く。

 トレーを両手に持って立ち上がる。厨房に持って行き、トレーを指定の場所に置いた。そうして食堂を出たのだった。


 満腹になったところで廊下を出て、学園の中庭を歩いていた。不意に少し離れた所に見覚えのある人影を見つける。亜麻色の腰までの長い真っ直ぐな髪はセイラだ。声を掛けようとしたら、二階の窓がいきなり開けられる。バケツを持った女子生徒が遠目にも見えた。

 その女子生徒がバケツを逆さに向ける。中には水が入っていたらしく、バシャンと音が上がった。不運なことにセイラがその真下におり、もろにその水を被ってしまう。


「……?!」


 女子生徒はさっさとバケツを持って行ってしまった。私は何事かと思いながらも、セイラの下へと走った。


 私は彼女に近づくと、まずは声を掛ける。


「……あの、フローレンスさん」


「あ、ソアレ様」


「びしょ濡れですね」


 私がいうと、セイラは苦笑いした。


「はい、そうですね」


「あの、私で良ければ。魔法を使いますね」


「え?」


 私は無詠唱で温風魔法を展開した。あっという間にセイラの髪や衣服などは可愛てしまう。次に、清浄の魔法も重ねがけする。これで大丈夫なはずだ。


「……凄い、温風魔法に清浄魔法を詠唱なしで!ありがとうございます」


「いえ、お礼を言われるまでもありません。それでは失礼しますね」


「あ、待ってください。ソアレ様」


 私がさっさとこの場から立ち去ろうとしたら。セイラが慌てて呼び止めてきた。仕方ないので足を止める。


「また、お礼をさせてください。ソアレ様は何かお好きな物はありませんか?」


「そうですね、甘い物は好きですけど」


「でしたら、マカロンとかケーキをご馳走させてください!私、これでもお菓子作りは得意なんです!」


「……はあ」


「あ、お昼の休憩時間が終わってしまいますね。では!」


 セイラはそう言うと、その場から走り去ってしまう。私はいきなりのことに驚いてはいたが。我に返り、教室に戻ったのだった。


 教室に戻り、授業を受ける。その間もお昼のことが頭から離れない。どうしたものか。セイラにはあまり、近づきたくなかった。彼女に女装男子の疑惑がある以上、下手に関わりたくないし。そう考えながらため息をつく。


(本当に困ったわね)


 それでも前を向いて、先生の話を聞く。授業は真面目に受けないとね。カリカリと黒板にかかれたことを書き写していった。


 授業が終わり、私はやはり前にいるセイラを見つめていた。彼女も視線に気づいたのか、振り返る。にっこりと笑い、軽く会釈をされた。反射的に私も同じようにする。一昨日とは大違いだわ。そう思いながらも次の授業の準備をしたのだった。


 私がまた、ため息をつくと。すぐ隣にいたライカ殿下が心配そうに見てきた。


「……大丈夫?ソアレ嬢」


「大丈夫です、心配をかけているようですね。すみません」


「別にそれはいいんだけどね、不調があったらすぐに言ってくれよな」


「わかりました、ありがとうございます」


「うん、さて。俺も準備をするよ」


 私は笑顔で頷く。ライカ殿下は本当に授業の準備を始めた。そっと、セイラをまた見つめた。彼女が振り返ることはなかった。

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