1)アラちゃんがやってきた!
沙耶加とあずみがテレビを見ながらスナックを食べている。沙耶加、ときどき笑う。
沙耶加:おねえちゃん、遅いなー。
あずみ:ねー。日曜だってのに働いてんのかね? よく働くわー。
沙耶加:ねえちゃん真面目だかんねー。あたしなんか堂々と有給使っちゃうからさ。
あずみ:それも極端だわ。いつかクビになるよ?
沙耶加:(スナック食べながら)遅いなー、お腹減った。
あずみ:いま食べたじゃん! おめーは餓鬼か!
塔子:(籠を持って登場する)ただいまー。
あずみ:おかえり~。
沙耶加:おかえりねえちゃん、腹減った!
塔子:まあまあ、いきなりなんなの? 小五男子みたい。
あずみ:いまアラフォーなんですけど?
沙耶加:アラサーだよ! (籠を見て)ねえちゃん、なにこれ?
塔子:ちょっと、衝動買いしちゃって…(籠を置く)。
沙耶加とあずみ、籠の布をとって中を見る。
沙耶加:鳥じゃん!
あずみ:しかもフクロウ! まだ小さいよね…?
塔子:…じゃあわたし、夕飯の買い物行ってくるね。
沙耶加:ちょ、いま帰ってきたばっかなのに!
あずみ、スマホで「フクロウ 餌」でネット検索。愕然とする。
沙耶加:(気づいて)あんた何やってんの?
あずみ:…フクロウの雛って、何食べるか知ってる?
沙耶加:知らない。でもフクロウって確か猛禽類だよね? あたしたち哺乳類とは違うんじゃない? くちばしじゃおっぱい吸えないよね?
あずみ:絶対吸えない。吸われるほうも痛そうだし。子猫だって子猫用ミルクがあるそうだよ。腎臓弱いから。
沙耶加:へー、そうなの。で、フクロウの雛は?
あずみ:冷凍ひよこ…
沙耶加:えーーっ?!
あずみ:冷凍雛うずらもある…
沙耶加:それって通販だよね?
あずみ:あったり前じゃない! あたしら野っぱらで勝手にひよことってどうすんのよ? 冷凍すんの? 生きがいいほうが絶対旨いに決まってる!
沙耶加:(あずみのスマホをとって)げ! カブトムシの幼虫とかミルワームまである…。
あずみ:(拳にぐっと力を入れ)…あたしたち、試練のときがきたわね!
沙耶加:(ドン引き笑い)え、なに言ってんの…?
あずみ:フクロウの赤ちゃんを育てるには、冷凍ひよことかミルワームとか気持ち悪い餌を、さも美味しそうに食べるところを赤ちゃんに見せてあげなきゃ!
沙耶加:まず赤ちゃんに食べさせろや!
あずみ:(ハッ)もしかして、塔子ねえちゃん…
沙耶加:(ハッ)フクロウだけ買ってきて、餌を買ってこなかった…
あずみ:…謎だわ…
沙耶加:いや昔からねえちゃんは黄色が苦手だったから…ひよこって冷凍しても黄色だよね?
あずみ:わかんないよ…そういえば、ねえちゃんて卵絶対食べないよね?
沙耶加:そうそう、わたし大好物なのに!
あずみ:わたしも! ちょっとあんた、運転免許持ってる?
沙耶加:持ってるけどペーパー。
あずみ:おねえちゃん、免許とってなかったと思う。確か自転車も乗らない。
沙耶加:え、なんで? ねえちゃん不器用なの?
あずみ:(食い気味に)黄色の信号が嫌だからよ! 危ないから事故起こすじゃない!
沙耶加:…そうか!
沙耶加、あずみ、フクロウを見る。
あずみ:顔がぐるぐる動いた! いったい何の真似?
沙耶加:エグザイルみたーい!
あずみ:ほんとだ! エグザイルエグザイル!
ふたりでエグザイルの真似をする。
あずみ:名前つけなきゃね。長女の塔子ねえちゃん、次女の沙耶加ねえちゃん、三女のわたしがあずみ。
沙耶加:じゃあこいつはシイタケっぽい色でシイちゃん!
あずみ:メンフクロウのメンディーは?
沙耶加:えー、シイちゃんがいい!
あずみ:わたしはメンディーがしっくりくると思う。なんといってもエグザイルだし。
沙耶加:メンディーってことは、オス? メス?
あずみ:えっ、メンディーってメスなの?!
沙耶加:そんなの知らねーわよ!
あずみ:(自問する)メンディーって、オス…? それともメス…?
沙耶加:ほれほれ、いまはジェンダーフリーの時代だから、どっちの場合も「さん」付けでないと!
あずみ:シイさん…なんか変、なんか嫌! なぜかはわからんけど嫌なの!
沙耶加:メンさん…『太陽にほえろ!』で、こんな名前の刑事キャラいなかった?
あずみ:カクさんスケさん?
沙耶加:それは『水戸黄門』!
あずみ:ヤマさんとゴリさんしか知らない。
沙耶加:あんたシブいわね~。ラガーとかスコッチとか、もっとあったでしょ!
塔子:(買い物袋を両手に提げて)ただいまー。
二人:おかえりー!
塔子:(籠に近寄って)ただいま、フクくん。
二人:(ぎょぎょ!)フクくん?!
塔子:二人がいてよかった、元気そうじゃないの。いまひき肉あげるからね~。
沙耶加:ねえちゃん、「さん」付けは?
塔子:(立ちどまって)そうねえ、子役のフクくんも、大人になったいまはフクさんて呼ばなきゃね。でも、フクくんのときが一番可愛かったな~。
あずみ:…フクくん、いくらで買ったの?
塔子:50万円。
二人:50万円?!
塔子:だから衝動買いって言ったじゃないの。
沙耶加:(挙手して)あたし、ご飯あげる! ひき肉でいいの?
塔子:うん、お願いね。
あずみ:あ! またエグザイルやってる!
塔子:どれどれ? ほんとだ!
ふたりでエグザイルの真似をする。
フクくん:…というわけで、北相馬家にやってきた、生後3か月のメンフクロウのオス、フクくんです。最初はボクが三姉妹の日常を語る予定だったのですが、今後はシナリオ形式にするか小説形式にするか、著者は迷っているそうです。作品はスタイルが肝心。
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