霊障どうでしょう
@fujisakikotora
第1話
人 物
伊勢朋美(20)学生
島野裕貴(20)学生
三千院みどり(20)学生
片桐チセ(享年19)地縛霊
○スマホの画面
容姿端麗な三千院みどり(20)がレポーターとして画面中央にいる。
画面上にテロップ「三千院みどり」。
みどり「私は今、5号館東側の駐車場に来ております。先日、国文科の石川先生が足を骨折された現場が、こちらになります」
カメラが寂れた駐車スペースの脇の側溝に寄る。
みどり「しかし、我々多美大学新聞部が調べたところ、この現場で似たような事件や事故が連続して起こっていたことがわかりました」
みどり、フリップを取り出す。
日付と事故の羅列。
みどり「このように、駐車時の自損事故、人身事故、自殺未遂までがこの近辺で起きているわけです。この不可解な現象に対して、我々新聞部が調べましたところ、ある忌まわしい事件にたどり着きました。カメラさん、ちょっとこちらに来てもらえますでしょうか」
みどりが後方へ歩き出す。カメラがついていく。薄暗い溜池にたどり着く。
みどり「見えてまいりました。はい。日中なのに、なにか肌寒いような気がします。実はこの溜池で50年前、ある事件が起きたのです」
○多美大学・教室
幅広の帽子の伊勢朋美(20)がうんざりしたようにスマホを見ている。
○多美大学・廊下
朋美と島野裕貴(20)が並んで歩いている。
裕貴「もう気にしなくていいじゃない」
朋美「あのお嬢ちゃまライターもどきに出し抜かれたんが耐えられへん」
裕貴「まあ、ちょっと、今回はやられちゃったねえ」
朋美、明らかに左に顔を背けて歩く。
裕貴は逆に右側を見ている。
右側に、「新聞部掲示板」。
「メディ研ことメディア研究会発行の同人誌、トップニュースはフェイクニ
ュースだった!」
「報道倫理とは」
厳しい顔をしたみどりの写真。
裕貴「三千院さん、飛ぶ鳥を落とす勢いだねえ」
朋美「くそう」
裕貴「そういえば新聞部、うちの専売特許だったオカルトもどんどん食い込んできてるね?あと動画配信。見た?最新の動画」
朋美「見たよ」
裕貴「ほんとかなこれ?」
朋美「知らん。死者を冒涜するようなことは我々メディ研は……」
裕貴が開いているスマホの画面に、動画が一時停止状態で表示されている。
大写しになった片桐チセ(享年19)の白黒写真。
朋美、それを見て身震いする。
裕貴「あれ?そういえば朋ちゃんさ」
朋美「何」
裕貴「見えんじゃなかった?」
朋美「……」
みどりの声「あァ〜ら!メディ研のお二人じゃありませんこと?」
朋美と裕貴、立ち止まる。
後ろからみどりが追いついてくる。
みどり「まさか最新流行のメディア、フェイクニュースを取り上げられるとは、フゥ。さすがメディア研究会といったところねえ」
朋美、歯を噛み締めて震えている。
みどり「でもそれを間に受けてトップで報じてしまうのは、フゥ。まずかったわ」
みどり、裕貴のスマホのチセの写真に目を止める。
みどり「あら、ご覧いただいてましたのね、我が新聞部の動画配信」
裕貴、慌ててスマホを後ろに隠す。
みどり「ああいったジャンル、ちょっと低俗かななんて思っておりましたけど、これがなかなかの反響ですの。これからは我が新聞部でも、ちょっと力を入れていこうかしら。なんせ……フゥ。きちんとした根拠と下調べがものをいう分野ですから。得意ですもの。我が新聞部は、ね」
みどりに殴り掛からんとしている朋美。裕貴が止めている。
みどり「では。フゥ。ごきげんよう」
颯爽と去るみどり。
朋美、歯を剥きだして怒っている。
朋美「うぐぐぐぐぐ」
○多美大学・五号館脇(夕)
しょんぼりした朋美と裕貴が歩く。
朋美「あーあ。もうやめちゃおうかなぁメディ研」
裕貴「朋ちゃんやめちゃったらもう部員私だけなんですけど。消滅よ消滅。いいの。多美大学のムー目指すんじゃなかったの」
朋美の足、ピタリと止まる。
溜池の辺りに人だかりができ、写真を
撮ったりしている。
裕貴「うわ、すご……」
うんざりして回り道をしようと踵を返した朋美、再びピタリと止まる。
チセが木に寄りかかっている。
チセ「あーあ。もうやめちゃおうかなぁ地縛霊」
チセ、朋美と目が合う。
朋美「ゆきちゃんよ」
裕貴「はい?」
朋美「スマホ貸してんか」
裕貴のスマホを奪って見る朋美。
画面のチセ。スマホが脇にどく。
木に寄りかかっているチセ。
再度スマホの画面のチセ。
スマホの画面が脇にどくと、チセは瞬時に目前まで迫ってきている。
朋美「わぁぁぁぁぁぁ!」
チセ「キャァァァァ」
朋美とチセ、互いに尻もちをつく。
裕貴「なになになになに」
チセ「びっくりしたぁ。大声出さないでよ!心臓止まるかと思った!」
朋美「いやいやいやいやあんた急にガッ!てくるから!ガッ!てくるから!てか心臓は初めから止まっとるやんけ!」
裕貴「誰と喋ってるの朋ちゃん!?あと心臓は動いてるのがデフォよ!?」
チセ「あー。はあ。まだドキドキしてる」
朋美「いやえらいすんません……て何ちゃっかり心臓動かしてんの!」
裕貴「朋美!落ち着け!」
裕貴に肩を掴まれて我に返る朋美。
チセ、埃を払って立ち上がっている。
朋美「あー……裕貴ちゃんよ、そこに……」
チセを指差す朋美。
振り返る裕貴。
裕貴「はあ?」
朋美「えと……チセ、さん?」
チセ「(可愛らしく)チセです」
× × ×
チセ、朋美、裕貴の順に車止めに座っている。
朋美「なんか、普通に不注意でコケたり、免許取りたてで車ぶつけたりしただけなのに、それ全部自分のせいみたいにされちゃって、おまけにテリトリーめちゃくちゃにされてヘコんでんだって」
裕貴「ああ〜……でもそりゃ落ち込むよねえ。でも私はチセちゃんが悪いんじゃないって、ちゃんと分かったから。(朋美に手で促しながら)あ、お願いします」
朋美「お願いしますじゃねえわ。通訳か。あんたの声は普通に届くから」
裕貴「腹立てないいちいち」
チセ「(得意げに)ま腹立つのも、立てる腹があるうちだけだぞ(自分で噴き出す)」
朋美「やかましいわ。ちょいちょい挟んでくるお前の地縛霊ジョークいらんねん」
裕貴「え、なになに教えてチセちゃんの地縛霊ジョークシリーズ」
チセ「(照れて)あ、あざっす。(朋美に通訳を促して)あ、お願いします」
朋美「もうやめさしてくれほんま……」
ガヤガヤと騒がしい溜池が視界に入り、表情を曇らせ俯くチセ。
チセ「あー……あたしの静かな日常が……。ねえ、あなた手貸してくれない?」
朋美「手?」
チセ「雑誌かなんか作ってるんでしょ?どーんとこの学校の別のニュースぶち上げてさ、みんなの関心ここから遠ざけてよ」
朋美「別のニュースって……そんな特ダネあったら言われなくても書いてるよ」
裕貴「何?」
朋美「あそこから気を逸らしてほしいって」
裕貴「ああ……(閃いて)ねえ?いけるよ」
朋美「はい?」
裕貴「心霊現象。いつでも起こせるじゃん、チセちゃんがいれば」
朋美「……!おおお!なるほど!」
チセ「なになになに?」
朋美「あんたが霊障起こして、あたしたちがそれ取材すればいいんだよ!」
チセ「レー……ショー?(照れて)あたし、脱いだりはしないからね」
朋美「なんでストリップショーやねん!てか誰が見んねん!」
裕貴「あたしとしてはあなたたち二人の漫才を取材したくて歯痒いんだけれども」
朋美「よっしゃ。名案やゆきちゃん。これで新聞部もギャフンと言わせたる。頼むでチセちゃん」
霊障どうでしょう @fujisakikotora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます