サンクチュアリ~私は誰のものでもない~

第1話 序章

人生で、最悪の日。それは、アイツに会った日――――…。





「なんで、お前に俺がフラれなきゃなんないの?」


「は?」


こいつは、一体、なにを言っているのだろう?私は、唐突なまでのソイツの言葉に、口がそれ以上、動かなかった。


「俺、モテるんだけど」


「知らないし」


「なんで?俺、週1で告られて、その度お前の為にフッてきたんだけど」


「それこそ知らないし」


こいつは、一体、なにを言っているのだろう?私は、こいつに告白されながら、2度目のその感情を抱いた。






矢代亜湊真やしろあすま。中学2年生。私の1個下。こいつのモテっぷりは、確かに学校中の噂で、耳にしている。確か、ファンクラブまであるとかないとか…。入学してすぐ、3年生まで騒いで、休み時間の1年8組の廊下は、女子生徒で溢れかえっていた。…とかなんとか。



でも、私には、関係のないことだった。私は、すきな人が他にいた。でも、その人は、そいつが入ってくる前の年に、卒業していってしまった。


すきだと、とうとう言えず、卒業式の日、校門に向かう先輩を、…先輩の後ろ姿を、スマホで、撮るしか出来ずに、泣いて、終わった―――…。


その先輩は、彼女がいた。だから、告白しなかった。どうせ、無駄だって、分かっていたから。人には、誰しも、侵されたくない、聖域がある。先輩の聖域は、他の人のもの。私が奪っていいものじゃない。私は、先輩をすきになって、自分の聖域が、広く、深くなっていった。



『誰も入って来ないで。私は、もう、恋はしないの。私は、誰のものにもならない』



そんな風に、心に決めた。それくらい、その先輩がすきだった。中3で、それは速すぎると、そんなこと、考える余裕もなかった。先輩のことがすき過ぎて。






でも、矢代に告白された、あの人生最悪の日から、私の聖域が何だか、歪み始めたんだ。





「なんで?」


「は?」


「なんで、俺がダメなの?」


「…私、すきな人いるから」


「あんた、馬鹿なの?」


「は?」


私は、突然の、『馬鹿なの?』発言に、『お前こそ』と言ってやりたくなった。でも、私は、冷静沈着がモットーだったし、こんな、鹿を相手にすることなど、まったくの時間の無駄だと考えなおし、そっちが、後輩のくせに上から目線なら、こっちも、とことん、上から目線でフッてやろうと思った。


「あんたに何が分かるの?私が馬鹿だろうが何だろうが、関係ない。あんたはモテるのかも知れないけど、私の聖域を侵さないで。私、誰のものでもないから。それに、私、年下に興味ないの。モテるんだったら、こんな可愛くもない先輩からかってないで、チヤホヤしてくれる子はべらせて遊んでれば?」


「聖域って何?そんなもん、グダグダ考えてるから、告白もなんも出来ずに終わっちまうんだ。叶うかも知れない恋、聖域なんてくだらない理由つけて、諦める方がどうかしてんだ」


「…!」


私は、すっごく頭にきた。


「なんで、あんたにそんなこと言われなきゃいけないの!?告白してきて、フラれてるんだから、さっさと諦めて、どっか行きなさいよ!!」


「その聖域で、そんな聖域なんかの為に、あんたは恋を諦めたんだろ?それって、チヤホヤしてくるやつら相手にするくらいつまんねーことなんじゃないの?」


私は、何だか、核心をつかれたみたいで、喉の奥に何かが込み上げて来た。


「…なんで…あんたが…私の失恋のこと…知ってんのよ…。あんたは…まだ入学してきてなかったでしょ?」


やっと、絞り出した反論が、それだった。


「あんたを…見たんだよ。小学校の卒業式の帰り、校門の前で、嬉しそうに2人でスマホで写真撮ってる男と女見つめて、その後ろ姿を、写真に撮って、泣いてる…あんた」


「…。だから…何よ…。あんたに…関係ないじゃない。私が誰をすきになろうが、告白しようがしまいが、只の小学生だったあんたに…何が分かるの!?」


「分からねーから、こうしてすきだって言いに来たんだ。あんたみたいに見てるだけなんて、つまんねーし、馬鹿みてーだし、今日、聖域とか言ってんの聞いて、マジうぜー。そんなもん、バンバン壊しゃいいんだよ。相手の聖域なんて、侵したもん勝ちだろ。それが、2人の聖域になるんだから」


生意気…。私は、そう思った。なのに、何処か、むきになってしまって、気が付いたら、下記の言葉を、並びたてていた。





「あんたには分かんないのよ!!私は、誰のものにもならない!!もう誰も好きにならないし、私の聖域を侵すやつは嫌い!!あんたも、嫌い!!告白の仕方も、断われた側の態度も、尋常じゃない!!あんたをすきになることは100%ない!!」


そう言うと、私は、ダッシュで、教室に戻った。


(何アイツ!!マジ腹立つ!!)


怒りと、怒りと、怒りと、怒りで、私は、お腹いっぱいだった。





―次の日―


星杏しおん!!」


朝から、小学校の時からの友人、万優子まゆこが、昇降口で、私を待ち伏せして、大きな声で私の名前を呼んだ。


「…何事よ…。朝から…」


私は、朝に弱い。もう朝は、滅茶苦茶不機嫌な場合がほぼ、だ。万優子の大声に、私の機嫌の悪さは、2日続けて最高潮…となる。言うまでもなく、昨日の、アイツの、アイツ曰く、まったくそうは思えないが、に、続いて、万優子の朝からの大声は、全く持ってきついものがあった。


「矢代くんのこと、フッたって、本当!?」


「…あぁ…。うん」


て!!なんで!?」


「は?なんでって、すきでもないヤツと付き合えって言うの?」


「は?はこっちのセリフ!!矢代くんだよ!?もう、この話題で学校中持ち切り!!」


「そりゃよかったわね。ライバルたちが喜んでるんでしょ?」


「その逆!!」


「は?」


「矢代くん、フルなんて頭おかしい!とか、何様?とか、ふざけんな!とか、絶対許さない!とか、もう星杏殺されるかも!!」


「…でも、それってさ、断わらなくても、一緒だったんじゃない?」


「…あ、やっぱそう思う?」


「思うよ。靴ズタズタになってないといいなぁ…」


「何をとろいことを…」


万優子は、焦りと、心配と、羨ましい、が混ざったような声で、私の下駄箱までついてきた。


カタン…。


「…………」


「やっぱり…だね…」


万優子が、冷静に分析した結果、これは、序章ルビを入力…に過ぎない、と、私に警告を促した。

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