殺家

鷹簸

白いゼラニウム

「お前なんか、死ねばいいのに」

「あんたなんか生まなきゃよかった」

「いい加減にしないと、殺すぞ」


劣悪な環境で育ってきた。

人は醜い。

取り巻く輩はそれしか教えてくれなかった。

俺は、この人が嫌いだ。

この家庭が、この学校が、この国が、この世界が。

どこまでも憎しみで溢れたこの世界が。


俺はペンを執る。

今日の為だけに演じてきた仮面を剥がし、絶つ為に。



「拝啓、母へ。

 手紙で私の気持ちを表すのは初めてかもしれません。

 ですが正直な私の心を綴りました。

 お手数ですが、最期の機会だと思い、読んでいただければ幸いです。

 父のことはあまり教えてくれませんでしたね。

 仕方ないので自力で調べました。

 電車内で痴漢した後、逃げようとしてホームに転落し、轢かれたと。

 随分とくだらない死に様でしたね。

 行けるならば是非葬式に赴きたかったです。

 さて、ここまで読んでいる時点で吐き気と違和感を覚えるでしょう。

 なぜ私がいい子ではないのか、と。

 生憎、私はいい子ちゃんじゃありません。

 仮面一枚被った私も見抜けないなんて、母親失格ですね。

 生きていて恥ずかしくないんでしょうか。

 問うてもこの手紙は本人に渡されるので関係のない話ですが。

 唐突に子供からこんな手紙が来た時のあなたの顔が見たくて仕方がありません。

 私の言いたいことは凡そ言いました。

 さてのうのうと生きる人生は如何ですか?

 余生をゆっくりと生きてください。息子より。

 

 p.s人生思い通りにいかないものです。」


そうだ、母は花が好きだったな。

最後の親不孝孝行おやふこうこうでもするか。


俺はそのさらさらな紙を封に入れ、

同じく白いゼラニウムを封に入れた。


いい子ちゃんの裏切りはさぞ傷が深いだろうな。


そんなことを思いつつポストに投函した。


___


数日後母の訃報が届いた。

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