あ、思い出しました!!
「ねぇ。どうしたっていうの?」
二人の訳の分からなさに、僕の目からは涙がポロリと一粒落ちた。
やっぱり最初に落ちたのは楊だった。
僕は再び楊に抱きしめられた。
「泣くなよ!だって、髙のスタンガンでお前は病院送りだったじゃないか」
僕は髙に渡されたスタンガンを防犯ベルだと思い込み、「お守りさん」とぎゅうっと自分の胸に押し付けた馬鹿者だったのである。
「う、う、うううう、う」
「ほらぁ、泣くなよ。あいつはお前をこれ以上傷つけたくは無いの。あいつはあれをすごく反省して後悔しているんだよ。だからさ、お前にスタンガンだって知られてからお前に会い辛いんだよ。わかってやって」
髙は僕が気味が悪いと思っていない?純粋に、あの時の事だけを苦にしていたの?僕は再び楊の胸から顔を上げると、彼に嘘が無いか見通せるほどじろじろと彼を見つめた。
楊は大嘘つきの男でもあるのだが、僕に微笑み返したその顔には嘘よりも僕への心配が浮かんでいるようであった。
「な、少し時間をあげてやって。あいつが汚名挽回できるようにね」
汚名は返上するものだと思うのだが、僕は髙に嫌われていないという事実が嬉しかった。
「えと、あの、かわちゃん。それじゃあ僕からもごめんなさいって伝えてくれる?」
「え?」
「せっかくの心遣いを台無しにしてごめんなさいって」
「え?」
「だって、あのスタンガンって、僕が一人で心細いって言ったからくれたんでしょう。身を守るお守りだよって。それなのに自爆しちゃって髙さんの気持ちを台無しにしちゃった。ごめんなさいって。次からはちゃんと敵に使うからって、僕も反省しているからって伝えてくれる?僕が気味が悪くて会いたくないんじゃないなら、僕を許してって」
楊は僕に答えてはくれなかった。
僕の後ろに立つ、僕一筋だと公言した山口でさえも。
彼らは僕が言い終わるや、どさり、と音が立つくらいに一斉にしゃがみ込み、僕に対する嫌味のように頭を抱えてしまったのである。
「ねぇ、どうしたの?僕が何か間違った事を言ったの?」
両手で顔を覆ったままの楊は微動だにしないが、僕に一筋男だけは僕に答えてくれた。
半分涙目の赤い目をしていたが、出来る限り真面目な顔を作って、だ。
「クロト、スタンガンは二度と君に渡させない。約束するよ」
「あ、信じていないですね。もう!もう!僕だって学習します。しました!もう二度と自分に使いませんよ!酷い!二人とも。いいです。僕はもう帰ります!」
酷い二人から踵を返して振り向けば、振り向いた先、今まで山口がいた僕の真後ろがブルーシートの現場だったのだと思い出させた。
「ひょえ!」
ブルーシートから顔だけ出したクレオパトラ田口が僕達を物凄い目で睨んでおり、僕はあの目としっかり目線があってしまったのだ。
「どうした!ちび!うわっ」
「クロト、どうしたの?ひえ!」
楊は上げた顔を再び両手で隠して丸まり、慌てて立ち上がった山口は僕を田口の目線から彼の体に隠すようにか僕を抱き締めた。
「うええ?」
今の変な声は山口?それで、えっと固まっちゃった?
固まっただけではない。
彼はブルーシートから鑑識のバンへと歩いていく田口の姿を目で追っているようなのだが。その顔付は僕が一度も見た事が無い唖然と形容できる表情だった。
「どうか、あの、しましたか?」
「いや、なんでもないよ」
僕の問いかけに僕に顔を戻した彼はいつもと違う笑い方で目を細めると、僕にのしかかるようにぎゅうっと抱きしめ直した。
「田口はもういいからさ、君はあの遺体が何に見えたの?思い出して」
急に山口が思い出したくもない死体を尋ねてきた。僕はあんなものを思い出したくはないのにと、考えたことで思い出しちゃった。
見覚えが、あるよあったよありまくりだった。
「かわちゃん!!」
僕は山口を振り払うと、しゃがんでいる楊の背広を両手で引っ張った。
「かわちゃん、来る最中にあった不法投棄の洗濯機。あの中にあの遺体の人がぐるぐると回っていたんですよ。」
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