鳥と王様

 ある国に鳥がいました。その鳥は千年に一度、国を跨いで飛翔します。国は、その鳥と一緒に移動します。その鳥は、ある意味で国でした。鳥の付属品として国は存在しています。鳥が動けば国も動きます。


 その日は鳥が飛ぶ日でした。王様は号令をかけて、国を畳んでいきます。

「この国を閉じよ。鳥と共に国を移す」

 民草は困惑しました。おとぎ話は皆知っていましたが、本当に鳥一匹のために国を動かすなんて思ってもみなかったのです。


 王様は言いました。

「鳥の尾を追う。馬車を出せ。軍を動かせ。民草を次なる国土に動かすのだ」

 兵士たちは困惑しました。そんな古い話に王様が本気だとは思いませんでした。


 鳥は飛び立ちました。その翼は燃えたち、その尾は虹のごとく輝いています。


 王様は言いました。

「何をしている。早く鳥を追うぞ」

 人々は言いました。

「王様にはついていけません」

「どうして王様は鳥を追うのですか」


 ふむ、と王様は考え込みます。どうして自分が鳥に執着しているのか。

 しばし目を閉じ、そのあと一息ついて王様は民草に答えました。

「あの鳥は我が妻の生まれ変わりなのだ」

 たしかに、今のあの鳥は王妃が死んだ日に孵った鳥でした。

 

 民草は考えます。王様の愚行に付き合うべきか。本当に王妃の生まれ変わりか。

 大抵の民は否、と考えました。


 王様は言いました。

「私は一人でも行く。お前たちが行かないというのなら、私一人で行く」

 そういって、王様は旅人になりました。



 数年後、旅人と鳥は誰もいない場所に落ち着きました。

 十年後、旅人は王様になりました。人を集め、道を作り、国ができました。それは新しい国でした。でもその時に鳥は卵を残して死にました。

 王様はまた一人ぼっちの気持ちになりました。民草はたくさんいても、王様は独りです。


 卵は虹色に光っています。

 さらに十年後、王様は死にました。その日に卵が孵り、鳥はかぁ、と鳴きました。


 王様と鳥はずっとひとりきりです。


 おしまい。

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