兄の行方 1
この世界のことを知らねば。自分のために、何より弟のために。
合羽に泥と草をつけて即席ギリースーツにした。
迂闊に近寄らなければ多分大丈夫だと思う。
しかし、言葉が通じるかどうかはやってみなければわからない。
通じなくてもどうにでもできるが、それは自分一人だけの話だ。
弟にはつらい思いをさせたくないし、なるべくなら気楽に暮らしたい。
いずれやらねばジリ貧なのは確定してるから……今日やるかどうかはコイントスででも決めるか。
念には念を入れて※15 漢字の部分を消した5円、10円、50円、100円から無作為に選ぶ。平等院鳳凰堂だった。
じゃあ、そのプランで行きますかっと。
「異常はないかぁ?」
「異常なしだぁ。」
「そん言えば天狗を見たぁと山げのもんが言っとったから気を付けるべ。」
「わかたぁ。しかしよ、沖で船さ沈んだから天狗でなくて異人でねか?」
「どっちもいっしょよ。でぇじにして元の場所にけえってもらうべ。」
「ちげぇねぇ。」
警邏と思しき二人が別れたのを確認して近づく。
幸いにもある程度言葉がわかることと、少なくとも無下には扱われないであろうことはわかった。
弟に報告をしようとすると突然の誰何をされた
「なんか光ってるな。誰だぁ?もののけかぁ?」
一説によると近代以前の明かりで暮らす生活をすると明暗に対して非常に敏感になるという。完全に油断をしていた。
とっさに文面を打って「逃げろ。やば」ゆっくりと兵士の前に姿を表す。
「私 異人 ます。」
思った通りに発声をある程度コントロールできる。このまま異人ロールプレイをして言葉を教えてもらう
「異人さんかぁ、わりぃよぉにはしねぇから上様のところに来るべ?」
「わかる ます。船 おちた 私 とても 困り。」
「そうかぁ、大変だったな。おべべもどろどろじゃねえか。」
「おれい あげます」
と10円を差し出すと、
「上様から褒美もらうべや」
と固辞された。これは非常に良い。
・銅貨よりも異人を差し出す方が報酬が良いほど大切にされている
・末端の兵士まで指導が行き届いている
・賄賂やチップの文化が浸透していない
・何より、話が通じる
これなら、先行き何とかなりそうだ。
親切な兵士に連れられて、古民家展示で見たような家に見張り付きで軟禁され、偉い人のおいでを待つことになった。
見張りの兵士には「お祈りの時間 一人にしてください」との方便でこっそりと弟に連絡を取った後、再開までは充電できないので電源を切った。
さて、1週間でどこまでやれるかな。
※16 「オラ、わくわくしてきたぞ!」
そのころの弟の様子につづく
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