第85話 迫りくる法と閉鎖的環境・部分社会の法理

 今度は、森川氏が所見を述べる。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 さて、貴君はさんざん憲法が云々と述べられたが、憲法が出るということは、その下にある関係諸法令も当然出て参らざるを得んわな。

 そこで、少し視点を変えて、典型家庭等と養護施設を並列して論じてみます。

 いいかな、家庭等であれ養護施設であれ、その内部の規律は憲法に基づかないで何をやってもよいというものではなかろう。それこそ、こうなるとなんじゃ、人権の私人間効力の話になってくるところではあるが、ここは別に憲法の勉強会ではないからそんな議論はしない。あくまでも、実態はどうかということについて論ずる。

 無論、家庭等の、あるいは養護施設の各構成員はおのおの、日本国民である以上、あるいは外国籍の者もおるかもしれんが、そうであったとしても、ここは日本国である以上、日本国の法令が適用されます。こんなのは君には釈迦に説法じゃが。

 さて、君も大学で習ったでしょう、部分社会の法理とか何とかいう議論。

 大学の単位を出す出さんで、というか、出させる打算というか算段で(苦笑)、裁判なんかやらかしてもしゃあないとは思うが、ああいうものが例として挙げられる。それと刑務所の受刑者の人権が云々、こちらは特別権力関係云々ということじゃが、ひょっと養護施設はそちらなのかという気もせんではない向きもあろう。

 じゃがまあそれはあまりなので、あえて部分社会の法理のほうで述べて参ろう。


 そうじゃのう、よつば園園長の私が高校生入所児童の米河清治君に、テレビが見たければ1週間分の新聞を見て、1日平均2時間を限度に見てよろしいと述べた。

 君は幼少期はあの手のアニメは見ていなかったようじゃが、まあええ、日曜日の朝8時30分から9時まで、プリキュアを見ると君は述べた。園長のわしが許可を出す。かくして、君はその時間、プリキュアを見られることとなりますね。

 そもそも論になろうが、入所児童の高校生米河清治には、憲法で様々な権利が保障されていて、いちいちこんなことは書いてはおらんが、プリキュアを見る権利も導き出されんわけではない。

 そこを園長のわしが、そんな幼女の見る番組を日曜の朝から見るとは何事じゃと、許可を出さない。

 それを君が裁判所に訴えたとしよう。

 どうじゃ、君らしい話になったのう(爆笑)。


~ ほっといてください、と、米河氏(さらにお互い爆笑)。


 さあ今度は、今の貴君が裁判官じゃ。どんな判決を書くか?

 あ、和解の話をやるとキリがないので、そこは一切なしでお答えください。


 今度は、米河氏の回答。


~ それはもう、正面切る以上は部分社会の法理でしょう。被告である園長森川一郎氏には、高校生である原告米河清治の法定代理人、親権者の代理として監護する義務を負っているが、さて、どのようなテレビ番組を視聴するか、そもそもテレビを長時間見ないようにすることはその業務の趣旨に合っているか否か、まあ、合っていないとまでは言えませんね。

 そこはいいとしても、プリキュアを見るなという被告の措置が、ここはあくまでも養護施設入所児童の原告米河清治の思想の自由やら学問の自由を侵害しているかという話になりましょうが、まあ、プリキュアを見る自由と正面切るのも、裁判官としてはなんだか。

 判決としては、そんなものは司法審査になじまない、で、原告の請求棄却です。

 私が言うと、なんだか、説得力が永遠のゼロですけど(大爆笑)。

 これこそまさに、単位をやるやらんのレベルの話ですわな(苦笑)。

 それこそこんなことは、「自主管理・自主運営」でやれよって感じでしょう。

 いくら強権的な大学当局の自治なんか山の中でやってくれという人でも、こんなことはそれこそ、その言葉通りの調子でやれよと言いたくもなるお話ですわな。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「なるほど、な」と森川氏。続けて、次回の日程調整に。

「このままでは行き詰まろうから、1週間の猶予をお互い持とうではないか」

「異論ありません。しかし、疲れました(苦笑)」

「プリキュアおじさんをさらし物というか、さらし首にでもしてしまったかな?」

「いえいえ、もう知られていますから。カエルの面に何とやら、ですかね(苦笑)」


 次回は、8月20日・日曜日の未明に決定。

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