第4話 メスガキ陰謀論


 世界はメスガキによって平和になる。

 それが、このウイルスを拡散した人間の思想だ。


 メスガキは、対人関係において巧者の側だ。

 そして、メスガキが口にする罵詈雑言は穏やかになる。

 だから、世界がメスガキになったら平和になる。


 メスガキ世界平和だ。


 そんなふうな論調の文字の羅列がネットの海に流れていった。



 或いは、こうも書いてある。


 メスガキは、子供だ。

 子供に暴力を振るえる人間はいない。そして子供を排除していったら、その国は滅ぶしかない。

 だからこれは極めて戦略的な兵器であり、人為改造を受けた生物兵器だろう。


 メスガキバイオハザードだ。



 それとも、こうもあった。


 こんな不自然なウイルスを人が作り出せる筈がない。

 メスガキは、神の意思だ。

 これは全世界に与えられた警鐘であり、我々人類に与えられた罰なのだ。


 メスガキアポカリプスだ。



 言うなれば、どれも、メスガキ陰謀論だろう。


 どれが真実かは判らない。

 そこに真実があるのかも判らない。

 それらは重要でないのかもしれないし、これから重要になるのかもしれない。

 ただ、これで、パンデミックものに必要な問いかけや答えというのは示せただろうか。


 ああ、つまりは一つのアレだ。


 中古品の修理品のカセットデッキを背負って、街頭で爆音を響かせて。


 映画の中のギャングがそうしているように。

 それとも現実のバッドボーイがそうするように。


 軽やかに、それとも重々しく。


 向かっていく先にはメスガキの群れが居て。

 戻る先にもメスガキの群れが居る。


 そんなバカバカしくて絶望的な映画のような光景。



 何かって?




 ああ、まあ、単純なあれだ。


 いい感じの音楽とモノローグで誤魔化せるかという、そういう映画特有のアレだ。

 とりあえず音楽をつけて、言葉を入れて、透明感さえ出しておけば詩的になるかというそういうアレだ。

 なんとなく爽やかな読了感を得られるかとか、そういうアレの試みだ。


 だからこの話は、ここまでがプロローグでここからが始まりなのだ。

 長らくお待たせしましたというべきか、それとも短い間ですがよろしくというべきか。

 とりあえず、いい感じに一言を決めてみる。



「――さて、始めるか」



 それで、多分、細かい話に移れるだろう。

 冗談ではなくこの世界にはメスガキ・ウイルスが広がってしまった。

 そんな世界の物語だ。


 多少は爽やかな気持ちになれただろうか?

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