第一章 裏
side 桜花 1(過去)
私、桜花陽菜はルイ・オリアンが好きだ。愛してる。独善的なまでに愛してる。
彼の中性的な容姿も声も、気だるげな表情も、少し抜けている所も、ポヨポヨした性格も、全て愛してる。誰よりも。
ただ、最初はそうでもなかった
私が彼と初めて会ったのは、中学2年生の時だった。
▪︎▪︎▪︎
「以前言ってた転校生を紹介します。入ってきて〜」
担任の言葉にみんな教室のドアを注視していた。かく言う私もしていた。
担任から伝えられた転校生の情報は、外国人と男の子だけだった。
ただでさえ転校生なんていないから、それも外国人なら尚更気になっていた。
短い返事と共に教室のドアを開けて入ってきた人物に、みんな目を奪われた。
とても綺麗な顔をしていた。あらかじめに男の子と知っていなかったら、男性か女性か分からなかったかもしれない。
「それじゃあ自己紹介して」
「..イギリスから来ました、ルイ・オリアンです。よろしく」
声も平均より高いため、一層中性的に感じられる。
ただ、冷たいわけではないけど、何処か素っ気ないように聞こえた。
「えっと、、それじゃあオリアン君の席はあそこです。みんなも仲良くしましょう」
微妙な空間を、無理矢理切って座る席を指す。みんなも空間を読んで拍手をしていた。
彼が座る席は一番後ろの列、それも窓側の席だった。いつもはそこに机と椅子が置いていなかった場所。
私は、私たちは彼に驚かされた。彼の端麗な容姿以上に、彼がずっと寝ていることに。
ホームルームが終わり、彼に話しかけたい気持ちと、初対面ゆえの人見知りがせめぎ合って誰も話しかけれない中、彼は早々に自分の腕を枕にして夢の世界に入っていった。
この時は大して驚かなかった。
自分だけ友人も知り合いもいない中は不安だろうし、外国に住んでいたから時差ボケでもあるのかと思っていた。
授業の始まりの挨拶は立ってしっかり挨拶していた。ただ、挨拶が終わると彼は直ぐに眠りについた。
途中で睡魔に襲われるとかじゃなく、一直線に眠ったからとても驚いたのを覚えている。隣の子はもっと驚いただろう。
授業の終わりの挨拶も、少し遅くれながら起きて挨拶はしていた。けど、挨拶が終わると直ぐに元の体勢に戻ってしまい、誰も話しかけれなかった。
次の授業も、次も、その次も同じことを繰り返して時間が過ぎてしまった。
〜昼食とお昼休みの時間
私たちの中学校は私立で、給食では無く各自のお弁当が昼食になる。
席をくっ付けて食べることで彼と仲良くなろうとした人もいた。けれど彼は自分の手さげからパンを取り出して直ぐに食べ終え、再び自分の腕を枕にした。
そのため、話しかける良いタイミングは尽く無かった。
私はいつもの顔触れで席をくっ付けて昼食を取っていた。
「オリアン君ずっと寝てるね」
「確かに。綺麗な顔なのに、済 澄まし込んでるのかな?」
「そんなこと言わないの」
「はーーい。そんなことより陽菜、今度の日曜日遊びに行かない?」
「ごめん。その日、習い事があるから行けないの」
「そっか。じゃあまた遊べる日があったら言ってね」
「うん、そうする」
みんなを諌めながらも、この時の私は彼にいい感情を持っていなかった。
私の親は、厳しい人だった。習い事も私がやりたくてやってるわけじゃない。勉強も、下がったならなんて言われるか分からない。やりたくてやっていたのは部活動ぐらいだった。
だから私は、授業中ずっと寝ていて、楽に過ごしているように見えた彼を良く思っていなかった。
誰も彼とまとも話し合えないまま、日数が過ぎていった。
▪︎▪︎▪︎
私は、更に彼を快く感じない出来事が起きた。
彼が転校して来たのは中2の終わりで、大して日が経つ間も無く学年末テストが訪れた。
焦る人もいる中、いつも勉強していた私は、いつもの定期テストのように学年末テストを迎えた。手応えも問題なかった筈だった。
テストの返却が始まって、友人と点数を言い合っりして、特段変哲の無いテストだった。
クラス内の成績上位者一覧が配られるまでは。
定期テストでは、テストが全て返却されると最後に担任から成績上位者一覧が紙で配られる。
担任が列ごとに紙をを渡して、それを後ろにだんだん渡していく。
1番初めに配られた生徒が小さくはあるが、聞こえる程度に驚きの声を上げ、私と彼の顔を交互に見てきた。
普通なら声を上げた生徒に視線が向けられる。けど、この時ばかりは同じような反応、特に彼の方を見る生徒が多かった。
ようやく私にも紙が渡ってきて、思わず紙に皺を作ってしまった。
私の名は2位に載っていて、いつも私の名が載ってる1位の場所には、ルイ・オリアンの名が載っていた。
私は、彼に嫉妬した。
彼が家で私よりもっと勉強しているかもしれない、なんて考える余裕はその時なかった。
ずるい、理不尽だと思った。私はあんなに頑張ったのに。彼は授業中いつも寝ているのにどうして。
そんな気持ちが心の中で渦巻いていた。
たぶん、負の感情が表に出ていたのだと思う。友人が私に気を遣っていたが、この時の私には気休めにならなかった。
こうして、私の連続1位の記録は予期せぬことで崩された。
私が彼に対する考えが変わったのは、春休みの最終日。中学3年生になる前日だった。
▪︎▪︎▪︎
彼に対する感情を払拭出来ないまま突入した春休み。
部活動に打ち込んでいれば、次第に学年末テストでのことを忘れられる。それでも、勉強に取り組めば頭に2位と彼のことが頭にちらついてしまう。
もやもやした感情を解消するため、私は余計に部活にのめり込んでいた。
春休み最後の日も、同じように午後6時まで部活をして、帰宅していた。
「明日から新学期だね。宿題は終わった?」
「まだ~。陽菜~見せて~」
「駄目よ。為にならないでしょ。それにどうせ今日で一応終わるようにしてるんでしょ」
「まあね。..あっ、私こっちだからまた明日~」
「うん、また明日」
友人とも別れ、私は1人で帰えろうとして部室に家の鍵を忘れたことふと思い出した。
私の両親は共働きでどちらも帰る時間が遅いため、私は学校に取りに戻らないといけなかった。
再びおなじ場所に戻ってきたときは既に、夜ではないが夕暮れとも言い難い空模様になっていた。
私がいつも帰るルートは建物を道路と挟んだ裏道を通っていた。私以外にも自転車通学や歩いて帰る人はこの道をよく使っている。
途中で学校を往復したがゆえに私の他にこの道を通っている者はいなかった。車の走る音位しか聞こえないはずが、私の耳から水がはねる音が幾度も聞こえた。
音の発生源は道路と反対側の川からだった。
その川では、まだ小さな犬が溺れていた。首輪はなかったから恐らく野良犬だったと思う。
川の流れは大した速さはなく、深さも精々腰あたりだった。けれど、この時間帯ゆえの水温や前日の雨による泥水を流す川と化していた。
加えて、後は単純に濡れたくないという理由から私は犬を助けることを躊躇ってしまった。助けないといけないと分かっていたのに。
犬が溺れ流れるのをただ傍観をするだけだった。わたしは。
「—ッ誰!?」
そんな私と対照的に、川の流れを止めるかのように誰かが川に入っていった。
彼だった。服が汚れたり濡れることに一切の躊躇は見えなかった。
気付かなかったが、私の少し離れた位置に居たらしい。
なぜこの時間にこんなところにいたのかは分からない。ただ、そんなことは関係ない。大切なのは彼が犬を助けたことで、私が、見てるしかしていなかったことだ。
犬を抱えて、腰から下だけでなく胸元まで汚しながら川から出てくるとそっと犬を地面に離した。犬はすぐに走り去っていった。
「オリアン、君、だよね。1つ聞かせて」
「えっと .......ぁ..桜花、さん?」
「あってるよ。..オリアン君はどうして犬を助けたの」
「 ............理由は、ないよ(本当は、仕事が遅れた言い訳作れる、から)」
私から目を逸らしてなんでもなさそうに言う彼に、私はたぶんこの時、好意をもったんだと思う。
けどこの時の私は、これを憧れだと思っていた。
私には私なりの『正義感』があった。だがこの『正義感』は口先だけで実際その場に出会わせると、役には立たなかった。それを難なくして見せた彼に憧れたんだと、そう思っていた。
今振り返ったら自分でも、自分がこんな単純で惚れっぽい人だと思っていなかった。ギャップ萌え、とでもいうのだろうか。いつもの彼を知る限り、あんな行動を取るような人だと思っていなかった。
何も言わなくなった私に、背を向けてその場を離れて行く彼を眺め続ける。彼が視界から居なくなったことで、私も急いで家に向かって走りだした。
帰ってからもずっと彼を考えていた。食事のときも、お風呂でも、寝る前もあの光景が脳裏に浮かぶ。
私は、いつもより遅く登校してしまっていた。
▪︎▪︎▪︎
学校について入口に人だかりが出来ていることを見て、この時ようやく自分のクラスがいつも違うことを思い出した。
数日前から、新しいクラスとクラスメイトが記載された紙は学校入り口の扉の隅に貼られてある。
だが、ドキドキしたいから私は登校初日で見るようにしていた。そのため、同じクラスになった人が伝えてこない限りは私は誰と一緒か分かっていなかった。
私は自分に名前を探しながら、同じくらい彼の名前を探してしまった。彼の名前はカタカナで表記されていたため一目瞭然だった。そのまま彼のクラスの名前を見始めた。私の名前は、同じクラスの中にあった。
この時の私の感情は、どう表現したらいいだろう。
嬉しさと恥ずかしさと、そしてその気持ちを否定する、いろいろな感情が混ざっていた。
教室に進む足はいつもより速かった。それを、友人に会えるから、と独りで内心意味のない誤魔化しをしていた。
「おはよ~陽菜」
「おはよう」
彼は、また寝ていた。中2のときと同じように友人と挨拶していたが、教室に入った瞬間に彼に目が行っていたことは違っていた。授業中も、彼の方をチラチラ見てしまう。
前までなら、授業中寝ていることに良い感情を持ち合わせなかった。それが、ダメな部分と思っていたそれさえも愛おしく思えてきた。
恋は盲目。何処か、狂っている。
▪︎▪︎▪︎
友人は彼をよく見る私に気が付いていた。
「陽菜。なんか今日オリアン君のことよく見ていたね」
「.... えっ、、、 そう、だった?」
昼食を友人と食べていると、不意を突かれた。
この言葉に、私は顔から火が出ないように精一杯だった。
友人が、私が彼をそう言った意識で見るように
だが、色恋に結び着けるのではなく、私を心配していた。
「学年末テストのこと、もう忘れなよ。次は絶対1位だからさ」
「えっあっ、うん。 そうだね」
友人は私が去年の学年末テストで1位を逃したことをまだ根に持ってると勘違いしているようだった。
私は、彼を見続けた。ずっと、ずっと。飽きずに見ていた。
私はあれから一度も、I位を取ることはなかった。
そんなこと、気にすることもなくなって行った。
▪︎▪︎▪︎
私は綺麗だ。自意識過剰のつもりはないし、客観的に見てもそうだと思う。実際、これまでに何度も告白された事があった。その時の言葉は決まって、一目惚れやら容姿を褒めることが多かった。
その頃の私は、私の内面を見てほしいなどと夢物語な事を平気で思っていた。だから、全て断っていた。
私が彼を好きな理由の1つは、私の容姿を気にしている様子がなかったこともあったからだったと思う。
でも、今は容姿からでいいから告白してほしかった。
一方通行の思いが辛い。
私を見てほしい。そんな気持ちが募るのに、何にも行動を移せない自分が歯痒かった。
そんな私を大きく変えたのは、9月の中旬の彼と担任の会話だった。
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