第62話:それはより善き未来のために。(弐)
正直ナ話、ソモソモナゼ明治帝ガコノヨウナ遊ビ同然ノコトヲシタガッタノカ、甚ダ不明デハアッタノダガ、後デソノ理由ヲ知ッタ折、理解ハシタノダガコンナ回リクドイコトヲシナケレバ証明デキナカッタノカト、甚ダ頭痛ガシタ。
――――山本孝三
そもそも、明治帝が一見してこのようなわけのわからないことをしたのは、実は「俊英」山本孝三がどのような人間であるか、ということを実地試験として見ようとしたからなのだが、ではなぜそれがサバゲーちっくな模擬戦闘であるのか、だが……。
「ところで陛下、かの俊英に何を命令するおつもりで?」
「……特に何も決めてはいないのだが、まだ勝ったわけでもあるまい、そういう話し合いは勝った後にした方がいいぞ」
「それは、確かにその通りではございますが……」
「山本代将、本当に斯様な大胆な布陣で宜しかったのでしょうか?」
「やむを得まい、私に軍隊経験が無い以上、玄人に任せた方がいいんだよ。それに……」
「それに?」
「さすがに、ここに一個小隊しかないことにはまだ誰も気づいていないだろう、第四大隊はまだ敵に気づかれてないみたいだぞ」
「……敵、とは」
「明治帝は、手を抜くなと仰った。故に、敵として認識する。……当たり前だが、この模擬戦闘中だけだからな。それに……」
「…………」
「
「…………」
山本の作戦案は、至って簡潔明瞭であった。その内容とは、誘導用の第三大隊から連隊旗守備部隊を一個小隊だけ引き抜き、第三大隊が全滅してでも敵の連隊旗を守備する部隊を叩き、伏兵として動かした第四連隊で連隊旗を奪い、誰か一人でも連隊旗を本陣に運んだら勝ち、という勝利条件を満たすためだけに、連隊全員を犠牲にする作戦を練ったわけだ。
当然ながら、訓練であり人死にが出ないという前提だからこそ行える作戦であり、大胆を通り越して無謀ともいえるほどの無策であった。
一方の明治帝は、兵家の常道的な、よく言えば手堅い、悪く言えば代わり映えのしない、この時代としてはほぼ確立された兵法を使って兵を指揮していた。それは、汎用性が高く、だいたいの局面において使用可能な兵法であったのだが、知らず知らずの内に明治帝側の連隊は追い込まれていた。
そして、そうこうするうちに第二大隊が妙なことを感づき始めていた。いくら進軍しても、
そして、山本少年がこもるたった一個小隊の丘に、第二大隊が足を踏み入れたそのとき!
「……こんな溝と機関銃だけの陣地が、とんでもない守備力を生むとはね」
「弾もってこい、面白いように相手に銃が当たるぞ!」
……日露戦争で学んだ塹壕戦を、的確に采配し得たのは第三大隊を犠牲にした準備時間があってのことであったが、山本少年が一個小隊のみで丘を守れると確信したのは、塹壕と機関銃で張り巡らされた陣地に対して突撃することがいかに無力であり、また火術による攻防こそが人が生命体である以上は的確であることを知らしめるものであった……。
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