転生者に愛想を尽かした女神が「もう世界は自分で救う!」と行動を起こしました!→結果

やざき わかば

転生者に愛想を尽かした女神が「もう世界は自分で救う!」と行動を起こしました!→結果

現世で死んだ魂が、今日もここにやってきた。

ここは異世界の、女神の宮である。


女神の仕事は、ここに来た転生者に何らかのスキルを与え、下界を脅かしている魔王を倒す、勇者になってもらうことであった。だが…。


「や、やった! 事故死から異世界転生って本当だったんだ! あ、貴方が女神様ですか!? 美しい!!」


今日もまた新たな転生者が送られてきた。女神は無表情で彼を見ている。


「ほ、ほら! 早くチートなスキルを僕にください! そしたら僕は」

「かしまさぬ(うるさい)!!!!」


転生者は女神によってかき消された。今頃成仏しているだろう。


「全くどいつもこいつも。あたしがスキルを与えたところで、ウェーイしてハーレムだーとかはしゃいで、挙句の果てに魔王を倒すなんて誰も出来てないし。大体ハーレムって別宗教の概念じゃん! こうなったらあたしが世界を救ってやるわ!」


そんなわけで、女神は下界に降りてきた。場所は広々とした草原。女神は次の哀れな犠牲者を、憤怒の形相で探した。運悪くそこへ魔物が通りかかった。


「そこの貴方」

「ひっ…ぷるぷる、ぼくはわるいスライムじゃないよ」

「ゆんがしまさぬ(やかましい)!!! 貴方も人に仇をなす存在なのですか?」

「いちども人間をおそったことなんかないよう」


スライムとやらは涙目である。その言葉に嘘はないだろう。というか大体、ここらへん人間いないし。


「よし、わかった。貴方も私についてらっしゃい」

「えっ、いやだよう」

「ついてらっしゃい」

「はい」


魔族と人間が争い合う世界。魔族を統べる者は魔王と呼ばれ、その実態は謎に満ちている。戦争は人間側が押されており、このままだと魔族が人間を駆逐してしまう。ここはそんな世界であるらしい。


そして女神の仕事は、「転生者に特別なスキルを与えて勇者とし、人間側をこの戦争に勝たせる」ことにあった。


まっぴらごめんである。正直ファッキンである。その証拠に、勇者達は何も結果を残していないではないか。これは私の責任か。否。転生者どもに任せているから何も変わっていないのだ。


とりあえず人間の街を目指したが、戦時中だからか、やはり防御を固めている。入り口には番兵が十数人待機していた。


「申し訳ありません。この街に入られるのでしたら、身分証明をお願いいたします」


肩にスライムを乗せてヒラヒラの服を来た女神は、やはり怪しい人物に思われるようだ。


「あたしは女神。貴方方人間が崇拝している神ですよ?」

「えっ何このヤバいおばさん。なにかクスリやってんのかな(申し訳ありません。規則なので)」

「言ってることと考えてることが逆よ」


仕方がないので、魔法で洗脳した。


「女神様バンザイ。お通りください」

「はい、ありがとう」

「ぷるぷる。やっぱりやばいやつだよう」

「握りつぶすわよ」

「女神様バンザイ」


中に入ってわかったのだが、ここは人間戦線の中心、王都であった。


「ふうん、だからあんなに防御が固められていたのね」

「ぷるぷる。中はなんか平和で活気がありますね。戦時中じゃないみたい」

「そうね…。ところでお腹すいてない? 良かったらなにか食べましょうか」

「わーい」


近所の食堂に入り、食事をしながら話を聞く。

やはり魔族との戦争などといった、きな臭い話は聞こえてこない。


そもそも、スライムという魔物を連れて、ヒラヒラの服を着たよそ者がいるのに、誰も何も問題にしない。ジロジロ見たり、陰口を叩いたりもしないのだ。


「これは王様に会いに行ったほうが早いわね」

「えっ大丈夫なんですか」

「これでも女神なのよ。大船に乗った気分で任せなさい」

「ど」

「泥舟とか言うんじゃないわよ」

「ごめんなさい」


女神は洗脳の魔法を使って、王様に謁見を許された。


「私が王です。なんでも女神を名乗るよくわからん女が攻めてきていると聞きましたが、そなたがそうですか?」

「失敬な。私は女神ですよ? 少しは敬ったらどうですか」

「ぷるぷる。それは敬われる行動を取ってから」

「踏み潰しますよ」

「あいすみません」


女神は人間の王に、魔族との戦争についてきいてみた。が…。


「戦争? そんなことしてませんよ。そもそも魔族がこちらに敵対意識を持っているという話も初耳です」

「え」

「なにかの間違いではないでしょうか。女神よ」

「ふーん…? これは魔王にも話を聞いてみるしかなさそうですね。いきますよスライム」

「お待ち下さい、それなら私も行きましょう」

「大丈夫なのですか? 貴方は王なのでしょう?」

「うん。っていうかヒマだし(女神様の誤解を解きたくて)」

「言ってることと考えてることが逆よ」


と、行き当たりばったりの国王と、強引な女神と、巻き込まれた可哀想なスライムは魔国へと向かった。女神の魔法で一瞬で到着したのだが。


「ぷるぷる。さすが女神様。ひとっ飛びですね」

「もっと崇め奉りなさい。オホホホウハハハハ」

「魔国は久しぶりです。我が国と同じくらい、平和で画期的ではありませんか」


そう、魔族が住み魔物が跋扈する魔国は、最近は人間の観光客も増え、経済的にも上向き。教育にも力を入れ治安も右肩上がりによくなっていっている。


「我が国も見習いたいものです」

「さぁ、いきますわよ! ザー」

「それは言っちゃダメだよう」


魔王に謁見。やはり魔王も同じ反応であった。


「我が国が人間と戦争!? とんでもない。人間は観光にも来てもらっているし、仲良くやらせてもらっているはずなのだが」

「人間側の国王です。貴方方の国の特産品は素晴らしいものばかりでいつも驚いております」

「やや、これは失礼いたした。魔族の王です。こちらこそ、貴方方の種族の生産されている道具や食べ物にいつも驚かされております」


大人同士の会話が繰り広げられる。


「え、じゃあ誰が人間と魔族が戦争をしているなんて吹聴したのよ」

「ぷるぷる。女神様の上位にいる神様かなんかじゃないですか?」

「あたしの上…一人いるわ。早速会いに行きましょう」

「私も行きます。面白そうだし」

「某も行く。面白そうだし」

「ぼくは行かない」

「かじりつくわよ」

「もうしわけない」


全員で仲良く、天界に戻ってきた。

数人ほど転生者が待っていたが、全員薙ぎ払って成仏させた。


「ひどい…」

「何がひどいもんですか。普通は、命が尽きたら迷うことなく、あの世に行くのが幸せなことなのよ」

「まぁ、確かになぁ」

「一理ありますね」


「天上神! どちらにおわしますか! 女神は怒っております!」

「ウェーイ! ここにいるよー! お客さんたくさんでイイネ! こんちゃ!!」

「こんにちは」

「こんにちは」

「なにこの人」

「こういう人なの…まぁいいわ。天上神! 貴方あたしに人間と魔族が戦争をしていると嘘とつきましたね!」


天上神は「やってしまった」というような顔をした。


「あー…バレた?」

「バレますよ! というか今までスキルをあげた転生者はどうしたんですか!?」

「あー…あれです。あそこ見て」


天上神が指差したところには、金魚鉢のような小さめの入れ物があった。


「あれがなにか?」

「みんな、あそこで頑張って戦ったり、怠惰な人生送ったりしてるよ」

「へ?」


「だって、そもそも異世界転生でチートスキルでハーレムイエーイ!!なんて無理に決まってるのに、最近の魂はそれが事実だと思ってるからさ! 変に断ったら天国にクレームの電話がひっきりなしにくるんだよ。おかげで天国てんてこ舞い。だから女神のところでテキトーにスキル付けてもらって、こっちで作った世界で頑張ってもらってたんだけどね」


「だったら一言言ってくださいよ! こっちがどれだけ苦労したか」

「だってお前演技へったくそでしょ。事実を言ったら絶対なんか転生者にバレんじゃん」

「うぐ」


天上神が人間と魔族の王に向いて、頭を下げた。

「この度は、こちらのことで迷惑をおかけいたした。どうか許されたい」

「ああ、私は良いですよ。面白かったし」

「某も何も思っておりませぬ。面白かったし」

「面白がられている」


「じゃあこれからどうすんのよ。転生者ってそもそも、成仏したくない、未練を残した魂のことでしょ。あたしが事実を知っちゃったら無理やり成仏させるしかないわよ」

「それについてはね、ちょっと考えがあるんだ。国王と魔王、ちょっと良い?」


その後、転生者はスキルを付与されることなく、大人しく成仏して輪廻の輪に乗るか、人間国、魔国のどちらかに転生して普通の人生を送るかの三択を選ぶこととなった。


大抵は転生した普通の人生を送ることを選ぶのだが、みんな楽しそうに第二の人生を謳歌しているようだ。


「まぁ良かったわよね。私も仕事が減ってのんびり出来るし」

「ぷるぷる。そうですね。ところでひとつ聞きたいのですが」

「なぁに?」

「ぼくはいつ帰れるの?」

「帰さないわよ?」

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